終末の世界で命を散らした俺、異能と共にリベンジ!最強シェルターで快適な終末ライフ、ここに開幕!

カフェオレ

第1話 世界は終わり、俺は再び生を授かった

「ミキ……」


十年来共に過ごしてきた愛猫が、目の前で一群の人々によって皮を剥がされ、解体され、鍋に放り込まれ煮込まれている。


その光景に吾郎の心は引き裂かれるような痛みを感じた。しかし、それだけでは終わらなかった。「ミキ」を平らげた彼らは、まだ彼を見逃すつもりはなかったのだ。


痛い。あまりにも痛い……


骨身に染みる痛みが吾郎の全身に広がる。これは単なる感覚ではなく、現実に彼の体に起こっていることだ。


氷の世界が広がり、終わりが始まった頃、人々はわずかながら助け合いの精神を持っていた。吾郎も全力で同じマンションの住人たちを手助けして、その恩恵を最も受けていたのは、長らく彼が恋心を寄せていた水倉梓だった。


しかし、今日になり、わずかな物資のために、水倉梓が加藤の部屋のドアを開けさせた後、人々が押し寄せて愛猫を殺し、残り少ない物資を奪い、さらに彼を殺して何かの目的に利用としているとは、信じがたい裏切りだった。


信頼し、助けてきた友人や隣人たちが、彼の肉を貪り切り裂いている。物資の欠乏したこの終末の世界では、彼らはもはやかつての恩など気にも留めず、彼とその愛猫にまで刃を向けたのだ。


意識が遠のく中、彼の視界の端に、心に思い描いていた女神、梓が見えた。彼女は人々の後ろに立ち、可憐な様子で、「私が扉を開けさせたのよ、私にも分けてくれなきゃ!」と叫んでいた。彼女こそが吾郎をだましてドアを開けさせ、死へと追いやった張本人だったのだ。


彼女を見つめる瞳には憎悪と悔恨が浮かんでいた。


意識が遠のく中で、吾郎は後悔に苛まれていた——すべての元凶は自分にあった。善良であるがゆえに、いつの間にか他人に利用されてしまったのだ。


全てがやり直せるなら……


今度こそ誰にも慈悲をかけず、自分のためだけに生き抜いてみせる。


やがて吾郎の視界は暗転し、意識が途切れた。しかし次の瞬間、彼は突如として目を見開き、ソファから起き上がったのだった。ついさっきまで体験した地獄のような光景と、骨まで伝わる痛みはあまりにも鮮明だ。


吾郎は荒い息を吐きながら周りを見渡す。全身は汗でぐっしょりと濡れていた。


「どういうことだ?俺はあいつらに殺されたはずだ……」


ようやく状況を理解し始めた吾郎は、周囲の景色に気づいた。この場所に見覚えがある。ここは自分の家だった。温度も快適で、そのことがかえって彼を不安にさせた。


というのも、西暦2055年12月、地球は80万光年先で発生したスーパーノヴァにより、地球規模のカンブリア吹雪に見舞われていた。気温は急激に下がり、吾郎が住む東京の平均気温はマイナス60~70度に達し、1ヶ月間続いた暴風雪が街全体を埋め尽くしたというのだ。


北海道一帯ではマイナス100度という驚異的な低温にまで達し、地表は氷雪に埋もれ、まるで死の地と化していた。生物の大部分が絶滅し、人類も95%以上がこの災厄で命を落とした。


吾郎は立ち上がり、冷蔵庫から水を取り出してがぶ飲みした。冷えた水の温度さえも、彼にとっては天の恵みのように思えた。


終末には、外に出てマイナス70度近い気温に耐え、雪を掘り起こして水にするしかなかった。その過程で命を落とす者も少なくなかった。


水を飲み終えると、吾郎はスマホを取り出して確認した。画面には「11月17日」と表示されている。世界の終わりまであと1ヶ月あったのだ。


「生まれ変わったのか……」


吾郎は深呼吸し、事の成り行きを理解した。あの一ヶ月の経験は夢ではなかった。特に、自分の体が分解されるあの痛みはあまりにもリアルだった。


災厄を生き延びた感覚に包まれながらも、彼の瞳には鋭い光が宿った。彼を裏切り、命を奪った者たちを、彼は一人残らず覚えている。この世界では、もう二度と隙を見せたりはしない、そう心に誓った。


かつての自分は無謀な“聖人”だったが、終末の環境では即座に命を落とすだろう。自業自得だ。吾郎は自らを省みた後、終末への備えを考え始めた。


吾郎の両親は早くに亡くなっており、彼が相続した東京のマンションは130平方メートルもの広さがあった。手元にある預金も1200万円以上と、通常ならば十分に余裕のある額だった。しかし、終末が訪れたら世界中の物資は大きく欠乏することになる。今の所持金だけでは長くは持たないだろう。


極寒の環境下で生き延びるためには、膨大な物資が必要だった。再び生を授かった今、ただ生き延びるだけでなく、快適な生活水準を維持したいと考えていた。食事や娯楽も欠かせず、さもなければ精神が長くは持たないだろう。


そんなことを考えていると、不意に吾郎の目の前に一筋の白い光が現れた。

目の錯覚かと思い、目をこすった。だが、その煌めく白光に対して妙な感覚が湧き上がってきた。それはまるで自分の一部であるかのように、頭の中にその情報が浮かび上がってきたのだ。


吾郎は念じ、意識をその白光の中に集中させる。すると、そこには信じられないほど広大な空間が広がっていた。


「これは……異空間か?」


再び生を授かったことで、何らかの特別な能力を手に入れたのかもしれない、吾郎は心の中で歓喜した。スーパーノヴァによって地球に降り注いだガンマ線が、彼にこの力を与えたのかもしれない。この広い空間があれば、世界の終わりに備えるための物資を大量に保管することができる。


この空間がどのくらいの量の物資を収納できるのか、そしてどのような物品が収容可能か、まずは試してみたいと吾郎は考えた。意識を現実に戻し、部屋の中のものを試しに収納してみることにした。


まずは茶器や調理器具から始め、問題なく収納できることを確認した。続いて、大型の家電も運んでみた。液晶テレビ、冷蔵庫、洗濯機、パソコン、エアコン、掃除機——ありとあらゆるものが白い空間に吸い込まれるように収まっていった。


しかも、一度収納したものは、なんと念じればすぐに取り出すこともできた。この発見に吾郎は興奮に震えた。


「この巨大な空間があれば、どれだけでも物資を蓄えられる!」


吾郎の脳裏に大胆な計画が閃く——彼の職場はIEON関東地区にある倉庫であり、そこで管理者を務めていたのだ。IEONは日本最大のスーパーマーケットであり、あらゆる物資を豊富に取り揃えていた。関東、関西それぞれに巨大な倉庫を持ち、いずれの倉庫も数百万人が1週間消費するのに十分な物資を常備していた。


つまり、もし倉庫の物資を自分の異空間に移せば、一生分どころか、何十世代にも渡って使い切れないほどの物資を確保できる!その上、IEONの倉庫には粗悪な商品など一切なく、食料や日用品から高級品に至るまで、全てがブランド品で、品質も保証されている。


終末が訪れてもIEON倉庫の物質があれば、極めて快適な生活を送ることができるだろう。倉庫の管理者として、吾郎は倉庫内の全ての棚、監視カメラの配置、人員のシフトに至るまで熟知していたため、倉庫を空っぽにする計画は決して難しくなかった。


終末に備える決意を固めた瞬間、吾郎は肩の力が抜け、安堵のため息を漏らした。


「グゥ……」


そのとき、彼の腹が空腹を訴えるように音を立てた。吾郎は腹に手を当て、テーブルに置かれていた残り物の料理に目をやったが、迷わずそれをゴミ箱に投げ捨てた。


「あと一ヶ月で世界は終わるんだ。今のうちに美味しいものをたっぷり味わっておかないとな。じゃないと、後悔するかもしれないからな」


お金?貯めておく意味などない。どうせ終末が訪れたら、金は紙切れ同然だ。今のうちに全部使い切ってしまうほうがずっと有意義だろう。吾郎は軽く笑い、外に出て食事を楽しむ支度をした。

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