脳だけですが生きてます~50年後に集いし廃人たち~
legalitat
001 プロローグ
真っ暗な部屋の中、パソコンのCRTモニタだけが煌々と明かりを放っている。
素早くマウスを動かしクリックを繰り返す。
キーボードもマウス操作と同様に連打する音が部屋に響く。
繰り返すこと数十分。男は一心不乱にモニタへと向かう。
やがて男は大きく息を吐くと操作の手を緩める。
少し離れた場所に置いてあるコーヒーの入ったマグカップを手に取り、すっかり温かさを失ったコーヒーを煽るように飲み干す。
タバコに火をつけ、椅子の背もたれへと体重をかけてリラックスする。
ゆっくりと紫煙を吐き出すと、咥えタバコのままモニターへと向かう。
シゲ:>おつー
ブルー:>おつかれー
あざれあ:>お疲れ様でしたー
マコ:>乙です
ステファ:>乙カレー
ペイン:>お疲れ様でした。
フィン:>おっつー
モニタの中には全部で7人のキャラがいる。
口々にねぎらいの発言をする中、シゲはアイテムを開いて花火アイテムを連打する。
画面内に割いては消える花火のエフェクトが表示される。
各々が思い思いのキャラエフェクトを出して歓迎する。あるものは祈り、あるものは笑顔で手を振る。
そんな画面をスクリーンショットとしてPCに保存する。
一同はギルドホームへと帰還する。
ギルドホームでは定位置にそれぞれが座る。
シゲ:>終わってしまいましたな
ブルー:>終わったねー
ステファ:>1PTじゃ倒せないって言われてたけどね
ペイン:>やる気の問題でしょう
フィン:>1PTったって最大12人イケるんだぜ?
向日葵:>このメンツだからかなー
マコ:>これからどうする?
フィン:>PvPとレア堀り以外にすることなくなったなー
ブルー:>レイドボスを倒せちゃうとね・・・
向日葵:>正直、このゲームいつまでやる?ってなっちゃうよね
ペイン:>リアルもだいぶ犠牲にしてきたしな
シゲ:>なあ・・・
ブルー:>???
シゲ:>俺さ、50年後にもう一度パーティー組みたい。
向日葵:>50年!?
マコ:>あー、定年退職後?
ペイン:>そこまで本気にゲームは確かにできないなー
ステファ:>オンラインゲームもどうなっていくのかね。
フィン:>ゲームだけして暮らしてぇ
シゲ:>ISDNもいつまで使えるのかなー
ブルー:>うちはADSLだし
マコ:>就職活動しなきゃだなー
シゲ:>50年後とかのさ、その時一番メジャーなオンラインゲームで、このメンツでパーティ組んで若者たちに『俺たちはまだできるぞ!甘く見るな!』って言ってやりたい。
向日葵:>老眼だとチャット読みにくくない?
ステファ:>画面も大きくなるのかな
ペイン:>どんな未来になっているのかねー
ブルー:>しばらくはこのゲームだらだら続けるかな
マコ:>この生活は変えられないね。本気度は違うかもしれないけど。
向日葵:>落としそうな単位あるしなー
フィン:>俺はバッサリ辞めないとまずいところまで来てる
ブルー:>三々五々になって連絡取れなくなるのは嫌だな
ステファ:>何があっても正月の挨拶だけは絶対するルールとか?
シゲ:>携帯のメアド変えたら絶対連絡だよな
マコ:>同じゲームをしているっていうのが絶対的な繋がりだったからな
ブルー:>ゲーム内の繋がりなくなるときつそうだなー
シゲ:>50年後に絶対同じゲームするんだって強い想いをみんなが持てば・・・
ステファ:>まだ50年後の話してる(笑)
ブルー:>50年は長いよね(笑)
向日葵:>この中で一番若いのって誰だっけ?シゲ?
ブルー:>誕生日一番遅いのがシゲじゃないかな?
シゲ:>俺が3月1日誕生日
マコ:>じゃあシゲの定年退職待ちかー
ペイン:>シゲが定年来るまで、俺の場合2年近く空きがある
フィン:>宝くじとか当たらねぇかなー
向日葵:>いいんじゃない?早めに始めても。シゲにスクショ送りまくって焦らせよう
ステファ:>シゲはプレイヤースキルだけは高いから、後からでも追いつく追いつく。
マコ:>定年退職って60歳じゃない?40年後でいいんじゃね?
ペイン:>50年後の意味は確かにわからんな
シゲ:>定年直後はちょっとゆっくりしたいやん
向日葵:>ゆっくりゲームしようよ(笑)
ブルー:>どんな未来になるかね・・・
そして各々がゲームからログアウトしていく。
最後まで残ったシゲはタバコに火をつけ、肺を紫煙で満たし今までの冒険を振り返る。
アースオンライン。そのMMORPGは2000年前後のMMORPGが多数リリースされる中でのひとつだった。
覇権ゲームかといわれればそうではない。もっと人気のある、人の集まるゲームはあった。
ただ、妙に自分のスタイルに合致したので続けていただけである。
オープンβテストから参加したとはいえ、決してスタートダッシュを決めれたわけではない。
ただコツコツと、ひたすらにゲームに打ち込んだだけである。
大学の出席日数も危うい。レポートも作成せずに放り投げてある。
それでもシゲを引き寄せるだけの魅力がアースオンラインにはあった。
仲良くなった6人でギルドを立ち上げた。ギルド名は『BackStreet』。
その時、偶々聞いていた洋楽から名前は拝借した。
ギルドメンバーは本当に偶々全職業がうまい事集まった。
戦士、魔術師、修道士、聖職者、盗賊、吟遊詩人、騎士。そのなかでシゲは魔術師だった。
吟遊詩人は魔術師の上位職、騎士は戦士の上位職。シゲは頑なに上位職にならずに魔術師を貫いた。
シゲはぼんやりと自分の進路を決めていた。
ITの世界では
本来はユーザーに質問や選択肢を提示してユーザーの操作を促し、対話形式で入力や設定などを誘導する方法であるが、この手法をそのままエンジニアがヒアリングして具現化させてシステムを構築する。
本当に一部の特殊技能と膨大な知識を持ったエンジニアだけが陰で囁かれる異名。それが
ゲームが好きで決めたコンピュータ系の大学であったが、最終的に『ゲームは遊ぶもので仕事にすべきではない』と自分の中で整理がついていた。
手始めに目指すのは魔法使い《ソーサラー》。サーバ用OSも、ネットワーク機器も、OSSも、ミドルウェアも。フロントのWebも、DBも。
器用貧乏と言われてもいい。すべてを理解するつもりで取り組む。
一つのことに集中できるのは素晴らしいことだが、コンピュータの世界、ITの世界において専門性は逆に足かせになる。
貪欲にすべての知識を得てやろう。INT全振りの特化型魔術師に。
シゲはゲームからログアウトすると、パソコンもシャットダウンさせる。
CRTモニタが静電気を帯びてぱちぱちとかすかな音をたててパチンと画面が消えた。
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