義妹の策略~俺と同居したかった彼女が親同士を再婚させた事を俺だけが知らない~
@panmimi60en
第1話:親「再婚します」俺「は?」
俺は初瀬陽向(ヒナタ)高校三年生。母子家庭のアパート育ち。
今、普段通りの夕食のさなか母親が突然「私、再婚するの」と言い出したところだ。
「は? 再婚? ……え?」
「ごめんね、ヒナタ……。私はあんたが高校を卒業するまで待つつもりだったんだけど、先方がどうしてもって」
「別にいいけど……」
ていうか彼氏いたんか。
知らなかった……。
ショックはショックだが別に反対するような事でもないな。
むしろ母親の老後の心配をする必要が少し薄れたんじゃないかと思ってホッとしてるくらいだ。
「どんな人?」
「優しい人よ」
「そういう事じゃなくて。何してる人?」
「飲食店やってるの。ホラ、コロナの時にあちこちのお店でテイクアウトが始まったでしょ? あの時に買ってたオムライスのお店の人よ。買い物の時に話をするようになって、そこから少しずつお付き合いが始まったの」
「へー」
馴れ初めを詳しく聞きたい訳じゃないが、飲食店か。なるほどねー。
母親の仕事は定時が19時で、帰宅してから食事を作るとなるとどうしても遅くなるので夕食は買ってきた弁当がほとんどだった。だけどそれも俺が中学までの話。
高校に入ってからは自分で料理をするようになって、ついでに母親の分も作るので夕食弁当生活は中学校と共に終了していた。
中学の頃に食ってたオムライス弁当の人かぁ。あれ美味かったんだよな。
まー、ちゃんとした人っぽいし。これ以上は聞かなくていいか。
「良かったな。おめでとう」
「ありがとう。……それでね、引っ越しの件なんだけど」
「引っ越すの?」
「当たり前じゃない。家族が増えるんだから」
あ、そっか……!
他人事だと思って油断してた! 思いっきり自分事じゃないか!
結婚と同居があんまり結びついてなかった。マジか。俺も他人と同居すんのか。
一気に嫌な気分になった――が、今さら反対なんて出来ないよな……。
黙って自分で作ったからあげを食べていると、母親はウキウキ顔で「実はもう家買っちゃったの!」と爆弾発言をかました。
「は!?」
「あちらさんにも娘がいてね。ずっと家を買いたかったらしいんだけど、忙しくしてるうちに時間ばかりが過ぎちゃったみたいで。この機会に買うかってなって、母さんが頭金、あちらさんがローン担当ってことで! 買っちゃったの! 大丈夫、ここから近いわよ」
事後報告……!?
「なんでそんな大事な事を後から言うの!?」
「勢いでつい。とっても良い物件だったから早い者勝ちだって言われて、それで」
「だからって即決するなよ! 頭金って……どこからそんな金が!?」
「数年前に仮装通貨が流行ったでしょ。実は母さんね、あの時に一財産築いてたのよ」
「そんな事してたの!?」
母親の知らなかった一面が次々と明らかになっていく。
そのおかげで俺は大事な情報をひとつ聞き流してしまっていた。
娘。
母親の再婚相手には娘がいるという情報を、あろうことか顔合わせの当日まで思い出しすらしなかったのだ。
♢
「初めまして。君が沙織さん(母親)の息子くんだね。私は柊誠人。こっちは娘の小夜子。――さぁ、小夜。ヒナタくんにご挨拶して」
「……はじめまして」
顔合わせに連れて行かれた某ホテルのロビーラウンジで、父親に促されて渋々といった様子で挨拶をする女の子。たぶんちょっと年下だ。
肩下まである髪はさらさらしてて、伏せた目元に長い睫毛が影を作る。
形の良い唇は桜色で、顔立ちはすごく可愛くて服装は清楚なロングワンピース。小夜子って古風な感じの名前が似合う――って、なんか見た事ある気がするな。どこで見たんだっけ。
「ほらヒナタ! ボーッとしてないでアンタも挨拶しなさい」
「あ、ああ……初めまして。初瀬陽向です」
「……ヒュッ……はじめましゅてぇ……」
「二回目……?」
変な呼吸音をさせて二度目のはじめましてをする彼女に不安を掻き立てられながら椅子に座る。
喘息か何かかな。大丈夫か?
「ヒナタくん、驚いたろう。急に再婚なんて……すまなかったね。本当はもう少し待とうと思っていたんだけど、娘のたっての希望で結婚を早めることに」
「え?」
娘の希望?
母さんは『先方のたっての希望』って言ってたけど……それってこのおじさんじゃなくて娘さんの希望だったの?
「ちょっとパパ! 余計な事を言わないでよ!」
「ああ、ゴメンゴメン。……まぁ、そういう訳なんだ」
どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。
娘さん――小夜子さんの希望で親同士の再婚が早まったってこと?
あれかな。父親を心配しての事かな。
独身の高齢男性って早死にするって統計があるらしいし。きっとそうだな。
「良い娘さんですね」
思わずそう言うと、小夜子さんは急にふっと意識を失いテーブルに頭を打ち付けた。
「ヒッ!? ……だ、大丈夫……?」
「だっだだだだいじょうぶでしゅぅ! すみません……!」
意識が飛んだのは一瞬の事だったようだ。すぐに起き上がってテーブルに飛び散ったお冷をオシボリで拭く。恥ずかしいのか顔が真っ赤だ。
体が弱いのかな。体調不良……?
俺もテーブルを拭くが、なぜか母親と誠人さん――義父になる人は黙ってその様子を見守っている。
心なしか視線が生温かいような……。
なんで二人とも心配しないんだよ!? 急に意識を失うって相当だぞ!?
「あの。小夜子さんの体調があまり良くないようですので、今日はこれで解散にしませんか?」
「えっ……!?」
なぜか小夜子さんが反応した。
「わ、私なら大丈夫です! ちょっと動悸が激しいだけで、その……元気なんです。とっても」
「そうそう。小夜は今日をとても楽しみにしていたんだ」
「パパ!? 余計な事を言わないでって言ったじゃない!」
「おう……。すまんかった。でも、そうだな。引っ越しの準備もあるし、今日は早めに解散するか」
「そうね、誠人さんはお店の準備もあるし。あんまり遅くなるといけないわね」
という流れで、飲み物一杯で顔合わせは終了となり、ホテルのロビーで誠人さんは俺達に「ではまた。小夜ともども、新生活を楽しみにしていますよ」と言って送り出してくれた。
良い人だったな。
「……ね、ヒナタ。小夜ちゃん、どうだった?」
「どうって?」
「可愛いでしょ」
「あー……まぁ、可愛い子だったね。ちょっと体が弱そうだけど」
「別に弱い訳じゃな――はっ、ううん。そうよね。少し体が弱い子なのよ。だからヒナタ。何かあったらあんたがお世話してやんなさい」
「なんで俺が?」
「だって母さんは仕事があるし。誠人さんだって忙しいし。飲食店って夜遅いのよ。小夜ちゃん、今まで一人でよく頑張ってきたわよね。誠人さんもとっても心配していたの。仕事とはいえ娘をずっとほったらかしにしてしまっている――って。これからはあんたがいるから安心ね」
「そう言われても」
親同士に縁があっただけで、俺と彼女は普通に他人だ。
他人、それも男にお世話されるなんて彼女からしたら恐怖なんじゃないかな。
……まぁ、寝込んでたら飲み物を用意するくらいの事はするけど。
他人との同居。不安だ。
彼女も災難だよな。あんなに可愛いのに、俺なんかと同居なんてさ。
「あ、ヒナタ。帰る前にコンビニ寄っていい? 母さん、インテリアの雑誌が欲しいの」
「おー」
母は新居のインテリアに凝る気満々のようだ。
普段買わない雑誌コーナーの前に陣取り、真剣な目で表紙を物色する。
「DIYはちょっと違うのよねぇ……。時間があればやってみたいけどなかなかそこまでは……」
ぶつぶつ言ってる母親を横に俺は漫画雑誌の方へと目を向ける。
なんか面白いのないかな。最近読んでるのが終わっちゃって、新しいのが読みたいんだよな。
そう思っていると、ふと一冊の漫画雑誌が目に留まった。
表紙にグラビアアイドルを使っているタイプの週刊漫画誌だ。
今週は最近売れっ子らしい巨乳美少女・ヒナが笑顔で表紙を飾っている。
……ん?
この子、どっかで見たような。
――って、小夜子さん!?
このグラビアアイドル『ヒナ』って、小夜子さんじゃない!?
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