宛兎磨学園の日常

@onmayuko1119

プロローグ







※この物語はフィクションです。

物語に出てくる登場人物や学校名は全て架空のものです。













「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」





______薄暗い校舎に甲高い悲鳴が響き渡る。



男は、夜の校舎に怯えながら時折先ほどのような悲鳴を上げる1人の少女を見つめ、小さく息を吐いた。


(頼むから静かにしてくれ〜〜〜!!)


無駄な祈りだと分かっているものの、どうにかして静かにしてほしいという思いから願わずにはいられなかった。


(そもそも、アイツがあんなこと言わなきゃ……!!)


男は、自分の経営するアパートに越してきた高飛車なもう1人の少女と、ここに至るまでの経緯を思い出し、先ほどと同じように息を吐いた。



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ことの発端は男の経営するアパートに住む1人の少女が "また" 突拍子もない話をし始めたことだった。


男、改め大家の大屋はまたか…と呆れるがそんなことも構わず高飛車な少女こと御宮彩葉が話し始める。


「ねぇ、お願いがあるの。」


「あぁ?お願いィ…?」


大屋の言葉には若干の呆れが込められている。


「そう、お願い。」


(今度は何を言い出すんだ…??)


今までの "お願い" から、大屋は彩葉が次に言おうとしていることを推測する。


(この前は象と麒麟を家で飼いたい、その次は大家を譲れ、その次は拳銃を買ってこい、その次は一緒にヤンキーにカチコミをしに行こう、だったよな……嫌な予感しかしねぇ………)


すっかり考え込んでしまった大屋を見て、彩葉が大屋の肩を揺らす。


「ねぇ、聞いてるの?」


「あぁ、あぁ、聞いてるよ」


「もう、絶対に聞いていなかったでしょう!

 あと一度しか言わないからね!」


(別に変なことなら聞きたくねぇんだけど…)


大屋の渋々話を聞いていると言った態度には少しも気づかず、彩葉が話を続ける。


「あなた、私の通っている学校、知っているでしょう?」


「あぁ、宛兎磨学園だろ?

 前々から思ってたけど、なかなかに酷い名前だよな…」


「えぇ。全く、誰がつけたのかしら、当て馬の方?」


くすくすと笑う彩葉に半ば呆れたように大屋が続きを促す。


「おい、お願いがあるんじゃねぇのか?」


「あら、ごめんなさい。

 それでね、お願いっていうのは…


 明後日の夜、宛兎磨学園に侵入して、校舎の中にいる生徒副会長の氷刃萌仁香さんを驚かせてきて欲しいの。」



「…………。」

「………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「随分と溜めたわね?」

 

「うるせェ!!

 お前、自分が何言ってんのかわかってんのか!?」


荒々しく責め立てるものの、理由を聞かないでやっているのは大屋の気遣いである。


「えぇ、もちろんよ。

 私の通っている学校、つまり政治家の娘や大企業の社長さんの息子…日本の権力 をもつ お方の子供が集まった超お金持ち学校である宛兎磨学園にコッソリお邪魔して、学校の中 で2番目に権力を持っている女の子を脅かしてきて、と言っているの。」


「……はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

 ……お前なぁ、なんでそこまでわかっててお願いできンだよ……。」


宛兎磨学園は金持ちで、さらに偏差値の高い優秀な者たちが通う学校であり、それ故にセキュリティーはとても厳しい。


そう、宛兎磨学園とは阿呆らしい名前からは考えられないほどにしっかりとしている学校であり、そこに不法侵入するということは、まさに自殺行為なのだ。


「でも、あなたならできるでしょう?」


「いや、なんでそんな自信満々なんだよ…」


彩葉がここまで自信を持って聞けるのは単に大屋の凄さからである。


表立って言えることではないが、大屋は昔闇バイトを行っていた。


その内容はチンピラたちがやるような物ではなく、それこそ宛兎磨学園に侵入するほどの難易度だった。


彩葉は両親がそういった情報に強いことで、大屋が闇バイトをしていたこと、同じアパートに住む和佳奈も闇バイトをしていることを知っており、その実力を買い、お願いしているのである。


大屋にとっては宛兎磨学園に侵入することなど造作もないが、足を洗った彼はこれ以上法を犯すようなことはしたくないのだ。


「あら、嫌だって言うの…?」


まぁ結局、彩葉の心無い脅しによってこのお願いを聞くことになったのだが。



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(………………いや、結構マジで酷くねぇか???)


一昨日の脅しを思い出し、思わず震えた大屋だったが、


また聞こえてきた


「きゃぁぁぁぁぁ!?」


という声と、


「あら、震えているけれど…大丈夫?」


といういないはずの少女の声で現実に戻される。


「ッッ!?」


なんとか悲鳴を殺しきり、早鐘を打っていた心臓を落ち着かせると、

静かにこちらを見つめるまゆ子に、小声で問う。


「お前…いつのまに来たんだよ?」


「あら?気づかなかったかしら、最初からいたわよ。

 宛兎磨学園に侵入する、なんてことはできるのにどこにでもいる女子高生の気配に

 気づくことははできないのね?」


(くそ、コイツが女じゃなかったら殴れンのに…‼︎)


荒々しくも紳士的な大屋の葛藤を見て、またくすくす、と笑う彼女の表情は

悲鳴を上げる少女を見つめていた時よりも愉しげだった。


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