異世界転生した俺の代わりに魔王軍最強の殺戮機械が現世に送り込まれていた
たぬき85
第1話 転生を司る女神(ギャル)
「どこだここは……」
見渡す限り真っ白な世界だった。
上下左右、全てが白い靄に覆われているかのようだった。
「夢の中にしては疲労感がリアルだな」
陸斗はぼやきながら足を動かす。
すると、頭上から光が差した。
「ほーん、自分が新しい転生希望者か」
光の中、ふわふわと舞い降りてきたのは、光沢のある金色のビキニを着た、金髪褐色のギャルだった。陸斗の目は思わずそのたわわな胸に釘付けになる。
金髪ギャルは背中の小ぶりな羽をぱたぱたと動かして陸斗の前に降り立った。よっこらしょと、その場にあぐらをかくときわどい食い込みが、あ、あ、危なーい!(ヒヤリハット現象)
「ウチは転生を司る女神、リナや」
色々な部分の布地がギリギリなことになっているが、金髪ギャルは何も気にせず関西弁で挨拶した。
陸斗はどんな夢だよ思いながら、リナの言葉を反芻した。
転生希望者。
転生を司る女神。
「いや、どういうこと」
「うん? 自分から異世界への転生を望んだわけちゃうん?」
リナは綺麗なアーモンドアイをくりくりと動かしながら、上目遣いでこちらに尋ねる。
「いや、望んでない……です」
「なるほど。ときどき自分みたいなやつもおんねん。なんも分からずに来てまうやつ。でも、ラッキーやで。今からチート能力モリモリで異世界に転生やからな」
リナはニコニコ笑っているが、陸斗には気になる点があった。
「転生ってことは……もしかして俺、死んだんですか?」
「せや」
リナはごくごく軽く宣告してくれた。だからと言う訳ではないだろうが、陸斗は自らの死に、何の実感も湧かなかった。
「どんな流れで死んだとか、何も思い出せないんですけど」
「死ぬ瞬間って痛かったり辛かったりすることが多いやろ。トラウマにならんように、思い出せんようにしてんねん」
「なるほど」
「そもそも、他のことも、ほとんど何も思い出せへんはずや」
「――確かに」
そう言われると、佐塚陸斗という自分の名前以外、自分の人生に関する詳しいことは何も思い出せなかった。
もちろん、言葉はわかる。感情を言語化することもできる。だが、具体的な記憶だけがすっぽりと脳内から消えているのだった。
こうなると未練も心残りも何もない。
「あ。安心してええよ。専門的な知識とかは、転生後もなんかいい感じに思い出せるようになっとるから。便利やろ。無双できるで。知らんけど」
都合が良すぎる気もしたが、そういうシステムになっているらしい。
「これから俺、どうなるんですか」
「言うたやん、異世界転生やって」
異世界転生ということは、字の如く、まったく違う世界に生まれ変わるということだ。
いったいどんな世界へ生まれ変わるというのだろう。元の世界の記憶も判然としないのだが。
リナは陸斗の疑問を汲み取ったように言った。
「自分が生まれ変わるのは剣と魔法の世界や。その名もジャンブリヤン。人間と魔族の戦争が500年も続いとる」
「治安悪そうですね」
「ま、弱肉強食の世界やな。強ければ何でも手に入るで。よかったな」
陸斗ははぁと生返事をする。
リナはどこからともなく商店街のイベントで使われていそうなガラポン抽選機を取り出した。
「これで何に転生するのか決めるんや」
「雑すぎません?」
「運試しやな。ま、自分のこれまでの経験を活かせるような候補しか入ってないから安心しぃ。どのみち、何に転生するにしても、チート能力上乗せするし」
陸斗は自分の運命を決めるガラポン抽選機をまじまじと眺めた。何ら特別なところのない抽選機に見えた。
「なんで俺なんですか」
「どういうこと?」
「いや、なんで俺が異世界転生なんてできるのかと思って」
「理由なんている? 運の良し悪しはただの偶然やで。選ばれしものの恍惚と不安とか、別に感じんでもええ。楽に回してみ――って何見てんねん」
陸斗はいつの間にかリナの汗ばんだ谷間に目を奪われていた。
「わりとむっつりやなぁ。ま、転生後は現地の女の子とよろしくやったらええわ。子供の作りすぎは注意やで。途端にリアルになるからな」
子供――という単語に何か引っ掛かりを感じた。もしかすると自分には子供がいたのかもしれない。そう考えると途端に胸騒ぎがした。
自分はのんきに異世界転生なんてしていいのだろうか。本当は何か大きな心残りがあるのではないか。陸斗は必死に記憶を蘇らせようとした。
「無駄やで。覚悟決めてガラガラ回しぃ。ほら、男の子やろ」
リナの言う通り、陸斗は何も思い出すことができなかった。
「転生先ではみんなモテモテやで。どんな非モテ童貞でもアルファオスの中のアルファオスになれるんや。せや、『絶倫』の能力も付与しといたる。昨夜はお楽しみでしたねどころやない。毎晩お楽しみや」
こいつは何を言っているんだと陸斗は呆れたが、その内容には少し心惹かれるものがあった。
そんな陸斗の内心を見透かしたように、リナはニヤッと笑った。陸斗はリナのたゆんたゆんな巨乳を凝視する。こんな感じのたわわな果実を掴み取り仕放題な世界なら行ってみたいかもしれない。
「おっとお客さん。女神にはノータッチでお願いします――ま、転生したらウチに関する記憶は消えてまうからな。残念やね。今のうちに目に焼き付けとき。Gカップやで」
リナがおどけると、その胸がぷるんと弾んだ。おお、なんてスペシャル。グレードのGだ。
乗り気になってきたやんかと声を弾ませたリナは陸斗の手を取ると、無理矢理抽選機のハンドルを握らせた。突然手を掴まれてドキリとする。
リナは陸斗と手を重ねたまま、ハンドルを回した。ジャラジャラと抽選機の中で玉が回る音がする。
陸斗があたふたしているうちに、抽選機の口から、一つの玉がポトリと落ちた。
なんとなく不吉な、漆黒の玉だった。
陸斗の手を放したリナは、玉をつまみ上げて太陽に透かすように頭上にかざした。空には白い空間があるばかりで太陽など見えないが。
「自分、なかなかレアなもん引いたなぁ」
感心するようにリナが呟く。
一体何を引いたと言うのだろう。
「自分の転生先は、魔王軍最強の戦士の肉体やで」
転生を司る女神が何やら恐ろしいことを言っている。なんで魔族側なの? と尋ねようとしたが、リナの声に遮られる。
「ただし――」
まるで星を閉じ込めたようなリナの瞳が陸斗を見据える。
「魔力で動く、
次の瞬間、陸斗の身体は宙に浮き、黄金色に光り始めた。驚きのあまり口をパクパクする陸斗を見ながら、リナは少し申し訳無さそうな顔をした。
「ダンジョンの奥深くで秘宝を守る、最強にして最凶の
「いやいやいやいやいやいやいやちょっと待ってよ。人間っていうか、生き物ですらないじゃないか」
「ウチもこんなん初めて見たわ」
あはははと笑うリナに、勘弁してくれと陸斗は頭を抱えた。
「案外、機械の身体もええかもよ。メンテナンスしたら不死身に近いみたいやし。強さも折り紙付きや。鬼の二回攻撃でラスボスよりエグいって話もあるみたい。よかったやん。すごーいすごーい」
「取り繕うように言うな! っていうかラスボスって何だよ!」
「まあまあ、もう決まったことや。ポジティブに受け入れよ? な? 残念ながら現地の女の子で酒池肉林は難しそうやけど。あ、せや、せめてオプションで電マぐらいは付けてもらう?」
「いらねーよ!!」
気が付くと陸斗の身体はヒトの形を失い、一つの塊のようになっていた。金色に輝くオーラの球体となり、その場に浮かんでいる。
陸斗は意識が遠のいていくのを感じた。
「いよいよ出発や。せっかく生まれ変わる新しい世界、楽しんでや」
反論しようにも、もはや陸斗の身体には声を発する器官などなかった。薄れゆく視界。消えゆく聴覚。
最後に聞こえたのは能天気な女神の声。
「あ、自分の魂の代わりに、殺戮機械のほうの魂を現世の自分の肉体には送っておくから安心してな。ほな、いってらっしゃーい」
何がどう安心なんだよ!
声にならない叫びを残して、佐塚陸斗の魂は次のステージへと進んでいった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「佐塚先生、佐塚先生〜」
何者かに肩を叩かれて佐塚陸斗は目覚めた。
「先生が居眠りなんて珍しいですね」
佐塚の隣でふふっと微笑む女性は――インストールされた記憶によれば――同僚の
佐塚は周囲を見回す。
自分のものではない自分の記憶と、目に映る景色を照合させる。
ここは、県立岩田屋高校の職員室だ。
自分が座っているのは二年生の担任団のテーブルが集められた『島』にある、自分の席だった。
そうか、やはりそういうことか。
魔王軍最強の殺戮機械は冷徹な頭脳で静かに認める。
自分は異世界に転生したのだ――と。
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