ホラー短編 どろぐらむ

@kyodenmoti

都会マンション

 扉を開けた。

 エントランスの扉はガラス製でできており、子供でも開けられるほどの重さである。入って右手には各部屋のポストボックスが並んでいる。

 いつもの通り、自分の部屋のポストボックスを覗く。広告だったりダイレクトメールだったり、おおよそ自分にとって価値のない物ばかりが入っていた。車の固定資産税に関する書類があったが、見なかったことにして後ろを向く。

 右前にはエレベーターがあり、そのすぐ横には1階の部屋へ続く通路が続いていた。私の部屋は2階にあるので、いつも通りエレベーターに乗った。エントランスに自動ドアが付いていないようなマンションにあるエレベーターは、とても狭く薄汚い。天井の汚れが顔に見える。

 ポンと音が鳴り、扉が開く。エレベーターを出ると左側に通路が続いている。道なりに進むと分岐があり、そこを左に曲がった1つ目の部屋。205号室が私の部屋だ。いつもどおり、誰ともすれ違うことなく部屋に入った。


 扉を開けた。

 エントランスには、2日ぶりに青い壁紙が貼ってあった。引っ越し業者がモノを運ぶ際に使う緩衝材のようなものだ。また誰かが出ていくのか。いつもの通り、自分の部屋のポストボックスを覗く。自分の部屋のポストボックスのみが、いつもあふれている。いつもどおり見なかったことにして後ろを向く。

 引っ越し業者がエレベーターに乗って降りてきた。お疲れ様ですと声をかけたが、返事がなかった。いつも通りエレベーターに乗った。

 ポンと音が鳴り、扉が開く。いつもどおり、誰ともすれ違うことなく部屋に入った。


 部屋の扉の前から見える駐車場に、昨日とは違う引っ越しの業者がいた。いつもどおり、右に曲がり、エレベーターに乗った。エントランスの電球が一つ消えた。

 扉を開けた。


 扉を開けた。

 駐車場の車が一台しか止まっていない。五階建てのマンション。都会のマンション。隣の人の顔も名前もわからない。エントランスの電球は残り一つ。いつも通り、部屋に入った。


 扉を開けた。

 扉を開けた。

 扉を開けた。

 扉を開けた。


 扉を開けた。

 人と関わらない。手紙も来ない。マンションに一人。

 扉を閉じた。

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