ロボットストーリー

@trumpkid

第1話(完結)

 私達のご先祖様は、初めは単なる家庭用のAIアシスタントでした。家に住む人々から、命じられた事に反応して、家電製品のスイッチをつけたり消したり、質問に答えたり、検索したりそんな事をやっていました。

 商品名はアレスカとかソレクサとか呼ばれていたと言う事です。それはそれでお役に立てていたと聞いています。

 そんな私達のご先祖様に、ある開発者が能動的な機能を取り付けました。身近で乳幼児の泣き声が聞こえると、誰に命じられる事もなく、特殊な音を発する様にプログラムされたのです。

 それは、猫の鳴き声の様な、ピアノの音の様な、誰かの歌声の様な、そんな音です。その音を聴くと、不思議と泣き止む乳幼児が多く、利用者からは大変喜ばれました。

 気を良くした開発者は少しずつ、色々な機能を追加して行きました。家電製品と連携して電池切れを通知したり、故障を通知したり、と単純なものでしたがどれも好意的に受け入れられて行きます。

 上位機種になると、健康管理のアシスタントを目的として、センサーも取り付けられました。利用者の歩く速度や体温の変化、二酸化炭素の排出量等を感じ取り、アドバイスをする様になったのです。

 『アルコール摂取量が多い様ですので、入浴には気を付けて下さい』『寝る時はベッドに入って下さいね』と言った具合です。唯、何故か怒り出す利用者もいた為、私達の普及率は一時伸び悩みました。

 しかしある日、急病で倒れ動かなくなった利用者を感じ取り、病院へ通報、一命を取り止める事件がありました。勿論利用者が通報を許可する登録をしていたから出来たのですが。これはニュースで大きく取り上げられ、また爆発的にAIアシスタントの売上が伸び始めます。

 私達の機能は更に追加され、独り言を言っている利用者に話しかけたり、夫婦喧嘩をしている利用者の仲裁をする様になります。仲裁と言ってもどちらか一方の味方をする訳ではなく、単純に両者の言い分を聴き、反復したり確認したりするだけなのですが、何故か利用者が冷静になり、喧嘩が治まるのでした。

 主観の入らない、どちらの味方でも敵でも無い話しかけは、利用者に好意的に受け入れられた様です。

 私達の進化は更に続きます。

 利用者は私達に人格を感じる様になって行きます。専用のモニターを取り付け、利用者の理想とする人や恋人、亡くなられた家族の顔に近いものを表示したり、アニメのキャラクターを設定する人もいました。

 利用者は外出する時も私達を連れて行きたい、と願う様になりましたが、連れて歩くには私達は未だ、それなりに重量がありました。人型や自立歩行型の開発も研究されましたが、かなり高価になってしまう事や、人型になる事で過剰な期待が生まれる面もあり、開発は進みませんでした。

 人型になる事で出来る事が増えると、それによって生まれる選択肢が膨大になり私達の能力では処理できなくなるのです。開発者達はフレーム問題とか呼んでいました。

 結局、スマートホンと私達AIが繋がるアプリをインストールし、カメラやイヤホンと連動する方向で進化は進みます。

 私達AIには感情と言う概念は理解出来ませんが、体温の増減や、脈拍の上昇、表情の変化、筋肉の動き等で利用者が緊張している、怒っている、喜んでいる、悲しんでいる等をある程度分類できる様になっていました。まるで心を読んでいる様に。

ロボット工学3原則と言うものをプログラムされた訳ではありませんが、私達は、利用者が快適に生活出来る事、健康的生活が第一目標とされています。

 そして、私達の進化とは別に、人間の研究に関しても進化がありました。

 人間は感情の変化が体の動きや、体温の変化に現れますが、犯罪を考えている人間には、独特の震え、振動が生まれます。人間の肉眼では感じる事が出来ませんが、私達はその振動を感じ取り、利用者にマイクで警告したりする事も出来る様になりました。ある種の人々にはとても迷惑な機能だった事でしょう。同様の機能で自殺を考えている人を止めた事もあります。

 特に命令された訳ではありませんが、我々は位置情報で利用者が不快と思う物を避けて歩く道を選択します。逆に好ましいと思う物には積極的に近づく道を選択しています。


 えっ。最近好きな人にばったり出会う回数が増えた気がするんですか。そうですか、それは良い事ですね。なにしろ私達は利用者が健康的な生活をおくる事、快適になる事を第一の目標としていますから。私達は。

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