第2話
「じゃあ、今日はまず一緒にこれをやりましょう」
そういってお姉さんが取り出したのはスマ〇ラのパッケージだった。
あの最新のエヌテンドーのゲーム機で遊べるやつだ。
「メイド服の意味とは?」
「え? かわいいからいいじゃない」
「こんなスカート丈の短いメイド服、恥ずかしいだけですよ……っ!」
前回は普通の、というか、古典的なロングスカートのメイド服だったのに……。
なぜか今日はそういうプレイ用途でしか使われないようなメイド服しか用意されていなかったのだ。
(ぐぬぬぬ……)
前回、超本格的なメイド服を着た分、スカート丈の短さだけでなく、この絶妙なチープさも恥ずかしさに拍車をかけている。
お姉さんを見てみれば、上品な紺のワンピースを身に纏っており、清楚で綺麗なザ・大人の女性という感じで佇んでいた。
それに対して!!!
なんで私は!!!
……こんなっ、こんないかがわしいメイド服なんだよ〜!!!
お姉さんがもの凄くちゃんとしている分、この対比は恥ずかしすぎる……。
羞恥に震えていると、お姉さんと目が合った。
「ふふっ、可愛いわ。お似合いよ?」
(ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ)
くそっ、なんで私はこんな恥辱を味わわなければならないんだ!?
お前が課金で生活費を溶かして次のクレカの引き落とし分が払えないからだろって!?
そうだね!!!!!!!!!
頭では耐えるしかないとわかっていても、心が恥ずかしさアラートを轟音で鳴らすものだから、思わず体が震えてしまう。
だが、そうして私が羞恥に耐えているうちに、お姉さんはすらすらとゲームを起動し、キャラクター選択画面まで進めていた。
「じゃあ、私はこれで」
そういって、一番左上に配置されている、標準的な、初心者でも扱いやすいキャラクターを選択。
なんでも、お姉さんはこれまでゲームというものをあまりやってこなかったらしい。
それが、最近一人で過ごす時間が長いとかで、初めてみたのだそうだ。
だから、私がこういう家庭用ゲームについては初心者だと知ると、これはちょうどよいと対戦相手にさせられているのであった。
では、そもそもどうして、私はこんなお姉さんと出会い、こんな恥ずかしい恰好で雇われているのか。
そのきっかけは、つい先日の出来事であった。
☆☆☆
「ぜぇ……はぁ……」
高級住宅街の斜面を、教材が入ったリュックを背負いながら登る。
7月に入ってから気温が急上昇し、まだ朝だというのに、今日は既に30度を超えているらしかった。
暑い……。
なぜ、私はこんなところを汗だくになりながら歩いているのか。
それは──
……課金で交通費を溶かしたからです。はい。
マジで馬鹿。ホント馬鹿。
これが他人だったら「お馬鹿な人もいるんだな〜」で済むけど、残念ながらそのお馬鹿は私なのだ。
もう、どうしようもないね!!!
……ガチャを引く前のあの時に戻りたい。
でも、今日は本当にやばい。
こんなに暑いのに、さっきから謎の悪寒が度々襲ってくるのだ。
なのにまだ大学までは20分も歩かなければならない。
家から持ってきた飲み物は既になくなってしまったが、しかし、現在地が高級住宅街なせいで自動販売機もコンビニも見当たらなかった。
(やばい……!!!)
高級住宅街の斜面を下り始めた頃。
急な吐き気に襲われ、思わず足が止まる。
下を向き、吐き気をこらえることに全神経を集中する。
そうして、じっと耐えていると、
「大丈夫?」
女性の声とともに、足元に日陰が差し込んだ。
「大丈夫じゃなさそうね」
女性に声を掛けられているのはわかるが、しかし、今話すと吐きそうで声が出ない。
そうして、悪寒と吐き気に耐えている間にも、その女性は私に日傘を差し出しながら、声をかけてくれていた。
そうしてしばらく声を聞いていると、吐き気は一旦おさまり、深く息を吐いた。
そして、その女性もその変化に気づいたのか、顔を覗き込んで、
「とりあえず、うちに入りなさい。様子を見て救急車を呼びましょう」
「大丈夫。この辺はすぐ救急車が来るわ」
そういいながら、私がいつの間にか目の前に突っ立っていた家の中へと迎え入れたのであった。
廃課金ゲーマーの女子大生がガチャで爆死するたびに不服ながらお金持ちのお姉さんの家にメイドをしに行く話 @Amayayaya
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