第2話

私の名前は小波渡こばとこのは。

大学1年生。身長154cm。肩につく程度の黒髪。

保育士を目指して保育系の大学に通っている。


特技:特になし

所持金:特になし


現在、父と弟が住む田舎から離れて一人暮らしをしている。


高校生当時からソシャゲに課金はしていたものの、せいぜいお小遣いの範囲でプリペイドカードを使っての課金だけだった。

それが、大学生になって生活費の仕送りが始まり、さらにクレカも作れるようになってしまったことで、課金額はどんどん上昇していき……その結果が、この惨状である。

実家にいればたとえ課金で所持金を使い果たしたとしても生活は保障されたのだろうが、一人暮らしだと生活費にすら手を出してしまえるので本当に危ない。

まあ、そんなこんなで課金で生活費を溶かした愚か者がお金持ちのお姉さんの家にメイドをしに来たのもこれで2回目になる。

いや、前回は報酬目当てでメイドをしたわけではないから、実質今回が初めてか。

嬉しくない初めてだね……。


では、そもそもどうして、私はお姉さんと出会い、メイドとして雇われることになったのか。

そのきっかけは、少し前の出来事であった。


☆☆☆


「ぜぇ……はぁ……」


高級住宅街の斜面を、教材が入ったリュックを背負いながら登る。

7月に入ってから気温が急上昇し、まだ朝だというのに、今日は既に30度を超えているらしかった。


暑い……。


なぜ、私はこんなところを汗だくになりながら歩いているのか。

それは──



……課金で交通費を溶かしたからです。はい。


マジで馬鹿。ホント馬鹿。

これが他人だったら「お馬鹿な人もいるんだな〜」で済むけど、残念ながらそのお馬鹿は私なのだ。

もう、どうしようもないね!!!


……ガチャを引く前のあの時に戻りたい。


でも、今日は本当にやばい。

こんなに暑いのに、さっきから謎の悪寒が度々襲ってくるのだ。

なのにまだ大学までは20分も歩かなければならない。

家から持ってきた飲み物は既になくなってしまったけれど、現在地が高級住宅街なせいで自動販売機もコンビニも見当たらなかった。



(やばい……!)


高級住宅街の斜面を下り始めた頃。

急な吐き気に襲われ、思わず足を止める。

下を向き、吐き気をこらえることに全神経を集中させる。

……これは、本格的に熱中症とか脱水症状とか、そういうやばいやつかもしれない。



道路の端に寄り、じっと吐き気をこらえていると、


「大丈夫?」


女性の声とともに、足元に日陰が差し込んだ。


「大丈夫じゃなさそうね」


どうやら、目の前の女性が私に日傘を差してくれたようだ。

しかし、今話すと吐きそうで声が出ない。


そうして、悪寒と吐き気に耐えている間にも、その女性は私に日傘を差し出しながら、声をかけてくれていた。

また、カバンから水筒を取り出し、それを私に手渡そうとしてくれているのも見える。


そうしてしばらく耐えていると、吐き気は一旦おさまり、肩の力を抜いて深く息を吐いた。

そして、女性もその変化に気づいたのか、水筒をこちらに手渡しながら、声を掛けてくる。


「これ、飲みかけでごめんなさい。とりあえず、うちに入りましょう。様子を見て救急車を呼ぶわ」

「大丈夫。この辺はすぐ救急車が来るから」


顔を上げてみれば、私よりも背が高く、亜麻色の髪を胸のあたりまで伸ばした優しそうなお姉さんがこちらを心配そうに覗き込んでいるのが見えた。


そして、そのお姉さんは私がいつの間にか目の前に突っ立っていたらしい豪邸の中へと私を迎え入れたのだった。



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[あとがき]

このはが黒髪なのは単に染めるお金がないだけです。

本人はお金があったら一度は染めてみたいと思っているようですが、果たしてそんな日は訪れるのでしょうか……。

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廃課金ゲーマーの女子大生がガチャで爆死するたびに不服ながらお金持ちのお姉さんの家にメイドをしに行く話 @Amayayaya

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