拳の裁定
それは、到達点。
帝国・最高戦力。8柱武貴。
その頂点、第1柱に君臨する男。
帝王の拳・ヴェルモンド。
2mを超える長身、全身が筋肉に覆われた体。そして何より、身にまとう白金の鎧。この男が姿を見せた瞬間、「主役」が塗り替えられた。
「ジャッジ。帝国8柱武貴の権限で告げる。
この戦いは、炎の歪カールベルト殿のテクニカル勝利だ。
だが、夜の瞬きチェイスアロウの力は分かった。戦場に赴くことを条件に恩赦とし、手続きを進めろ。以上だ」
『か、かしこまりまし「まて・・・よ」カールベルト選手?』
「ふざけるな・・・!・・・私は、まだ・・・やれる。それに・・・命を賭してチェイスアロウを焼くのが・・・私の任務だ・・・!!」
「・・・その意気や、よし。だがそれは異なこと。そも、この闘技場は命を賭して力を魅せる場ではあるが、相手の殺害を行うことを目的として行うものではない。
加えて、2つ。
1つに、帝国内でいかなる事情があれ、王国の特記戦力が死亡するような事態は望ましくない。
2つに、この試合は夜の瞬きチェイスアロウの力を示し、恩赦を与えるにふさわしいか測るためのもの。
いずれの理由にせよ、このまま戦いを続けさせる意味が、帝国にはない。
それとも?なにか、不都合な、理由があるのかね??」
「・・・っ!!」
生じる、圧。
この場に、裁定に異を唱える者はいなかった。
「さて。次の仕事だ」
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「いやー、すごかったねー」
観客席。
いまだに意識が戻らないキョウと、何か懐かしいものを見るかのような邪神。
「キョウ?キョウくーん!どうだい、どうしたい?こーれが、この世界の上澄みだよ。でも、頂点じゃない。
逸脱者を超える英雄が、未知が、この世界には溢れている!
戦いを生業とするものじゃなくてもわかるだろう?あの、拳の彼もそーさ!」
目線を、向ける。
自身ではおそらく、歯牙にもかけられないであろう逸脱者という強者。
そして、それらと比較しても圧倒的な、拳の英雄。
最高戦力中の、最高戦力。生きるため、そして知るべき知識として。
異世界の力を知った、俺は・・・
「・・・見つけたぞ」
圧の込められた、声。
目にもとまらぬ、風速。
体の横を突き抜ける、拳。
・・・・・・ぐしゃっ!!
壁にたたきつけられる、邪神の端末。
「・・・・・・・・・は?」
「立て。この程度でお前が、魔神が、くたばるわけがないだろう。
何をしに来た、異世界の神、魔神よ。
目的の如何によっては、帝王の拳がお相手する」
「うーん、ひっどいなぁー。ボク、まだ何もしてなくないかなー?それともこの世界の住人は、あいさつ代わりに殴るのが文化なのー?」
立ち上がる、邪神。
帝王の拳は、圧倒的で。
歯牙にもかけられない逸脱者を、さらに超える練度で。
それを受け止めた邪神は、静かに笑う。嗤う。哂う。
「・・・そちらの青年も、動くな。聞かれたことにだけ答えろ。場合によっては、即座に敵対行動と見なす」
軽い、威圧。
だがそれは、LV1の一般人に圧倒的で・・・
「・・・あっ」
崩れる、膝。
腕で受け止められる、体。
「あーもー、ひどいなぁー。さっきも言ったけど、ボクはまだ何もしてないし、キョウ君に至ってはLV1の一般人だよー?人類の最高峰が圧をかけるなよー圧をー」
「・・・答えろ。何の用でこの地に舞い降りた。」
「一言でいうならー、ひまつぶし。でもね?邪神・・・君たちの言い方に倣うなら、魔神かな?、うん、そう呼称しよう!
魔神として、この異世界に面白い話を持ってきたんだ!
もちろんボクは詐欺師じゃないから、【確実にいい話だよ!!】なんて言う気はない。神と人間が取引する以上、相応のリスクもあるさ。
ボクが君に、君たちにしたいのはそんな話。」
「・・・・・・続けろ」
「そーだねー。まず、キョウ君を休ませる場所が欲しいかな。あと、会える範囲でいい。ボクと話ができる範囲で、偉い人に会いたいな。その相手はもちろん、その相手と会うまでもしくはボク達が攻撃されるまで、【決して人族を傷つけない】という契約を、キョウ君を休ませる場所の提供対価に結んでもいい。どうかな?」
「・・・いいだろう。だが、本来契約は対価である必要があるのだろう。それは、釣り合っているのか?」
「釣り合っているのさ。ボクにとってキョウくんの安全と、この世界全ての人間の安全は、今この場の、ボクの主観において釣り合っているのさ。
価値ってのは、絶対評価じゃない。相対評価なんだよー?」
「腑に落ちないことはある、が。そのための対話か。
いいだろう。帝王の拳・ヴェルモンドの名に誓い、その取引を承認する」
「おーけーおーけー!そちらが話を通してくれるまでまつけども、一級のスィートルームを頼むよー?
なんたってボクは、魔神様なんだからねー?」
こうして。
長い1日が終わった。
異世界は回る、廻る。
「力」に揺られて。
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