第34話 傲慢皇子と皇女

 皇宮に来た翌日早朝、私は目玉の部屋に居た。

 「どうしよう…すっかり忘れてたよ。大聖堂に持ってく花が無い、今から採りに行ってもいいかな?」

 部屋の中を右往左往してる私に、目玉が問いかけてくる。

 「採りにって、何処へ?」

 「森!どんな花が咲いてるか知らんけど?ここの神様には、禁忌になってる花とかあんのかな」

 「何を焦っているんだ?花なら買って来たぞ」

 金魚が綺麗な花束をくれた。

 「わぁ、ありがとう。あんたって本当に気が利くね、助かったわ」


 「ティア、クレア。今日は学園の初日だから、遅刻しないようにね」

 「「ありがと、行って来るね」」

 私とクレアは大聖堂に来て、信じてない神様に祈りを捧げ、花束を近くにいる聖職者に渡してから学園に向かう。

 何故祈りを捧げに行くのかって?

 情報収集の為なのだよ、聖女様とやらがいるからね。

 私達は、魔術の第二形態を開放させる事に成功したのだ。

 知っての通り、クレアは水を氷に変えられ、私は植物を操れるようになったよ。

 まだまだ完成度は低いんだけどね、そこは伸びしろがあると思う事にする。


 植物なら、切り花でも良い。

 祈りを捧げてる間に、ちょっとだけ魔力を流し込む、ちょっとだけね?

 普段使ってる持ち物に、その人の魔力が付く事は当たり前の世界だが、付き過ぎると魔力を使って何かすると思われるのも常識。

 だから、持って来て祈りを捧げてる時に、魔力付いたよって程度に流すのだ。


 魔力の付いた花束は、傍に居る人の声や、音を拾ってくれる。

 魔力が少ないから、音を拾う範囲も狭いし、持続時間も短い。

 花束が何処に飾られるかは、運次第。

 それこそ神頼みってやつ?

 聖女の部屋に、飾られますようにって、祈っておこうか。


 拾った音は、魔道具を通して聞く事が出来る。

 何時、何処で誰が話してるか分かんない声を、ずっと聴いてるの。

 その役割は、目玉に押し付けた。

 凄~く抵抗されたけど、魔力石使ってるから、王族が身に着けてる方が違和感ないでしょ?

 なして嫌がるのって聞いたら、躊躇いつつも耳に着けてくれた。

 骨伝導式になってるから、他人に音が漏れる事は無い。

 この耳飾りは、クレアの発明品なのだよ。フフン(ドヤ顔)


 あ、宝石は、王弟から貰ったよ。

 魔道具の研究したいって言ったら、いっぱいくれた。

 だからいろんな魔道具作って、お披露目してねって、置いて来た。


 さ~て、初日のお花は、何処に飾られるのかな?

 楽しみ。


 学園に来たら、門前に綺麗な女の子が居た。

 「おはようございます。えっと、ルイーズ様ですか?」

 「ごきげんよう、オルテンシア伯爵、エルピーダ伯爵。ルイーズ・ベルフールと申します。どうぞお見知りおきを」

 彼女はアルフレッド皇子様の婚約者で、ベルフルール侯爵の娘さんだ。

 今日はここで待ち合わせてたのだ、敷地がとっても広いから、迷子になるんだって。

 「ありがとう、宜しくね。私はカルティア、ティアって呼んで」

 「クレアだよ」

 「ありがとうございます、ティア様、クレア様。私の事は、イズとお呼び下さいませ」

 イズから学園の事を、いろいろ教えて貰ったよ。

 教員室の前で目玉達とも合流、そこからは皇子様の案内で、学園長のお部屋にやって来た。


 この学園は朝から昼食を挟んで午後も授業があるけど、留学生は単位とか関係ないので、朝礼に出れば出席扱いになるんだって。

 無断欠席しなければ良いのだ。

 受けたい授業があれば勝手に行って、勝手に受けて来いってスタンスらしい。

 好都合ではないか!フフン(ドヤ顔)

 目玉はクソ真面目に選択科目を選んでたけど、私達は適当だ。

 一通り説明を受けた所で、次は校内を案内して貰った。

 午前中かけて全部回れなかったとは…大国の学園恐るべし。


 お腹が空いたし、食堂で昼食を摂ってたら、変な人達が来た。

 ユリアン第二皇妃(私に暗殺者を送って来てた奴)の息子、エイドリアン皇子と、その妹のアビゲイル皇女だ。

 どうやら汚物の臭いは、消えたらしい…

 やっぱ優秀な薬術師が、付いてるんだな、消臭効果抜群ではないか。


 「アルフレッド、ルイーズどけろ!」

 え、いきなり何?

 空いてる席に座ればいいじゃん。

 「皆様、また後で、失礼…」

 皇子様達が立ち上がろうとしたから、止めた。

 「待って、食事中に席を移動した数だけ嫁に行くって、私達のお婆様が言ってたの。お行儀が悪いって」

 「どの口が言う」

 「「あはははは」」

 クレアと二人で笑ってたら、エイドリアン皇子がギロリと睨んだけど、なんだよ!

 「お前は何様だ?俺が、誰か知っていての狼藉なら、許さんぞ」


 「我が国、マルス・ドメスティカの重鎮に、何か御用でしょうか?エイドリアン皇子殿下」

 今度は目玉に視線を向けて、鼻で笑ってる。

 「お前がルイフォードか?弱小国家の王族が、俺に口答えをするとは、良い度胸だな」

 「あら?もしかして…ルイに婚約を破棄された、カルティアかしら?誰の許しを得て、皇族席に着いているの、汚らわしいですわね。身の程を弁えなさい」

 「婚約破棄?汚らわしい?それは一体誰…」

 「………」

 目玉の声音が変わったのより、クレアの怒気のが不味いと思って、咄嗟に声が出た。


 「あんたゆんべ、えんこつっぱねた人だべ~?きりょう良しば、わやなって、なまらやばかったっけさ。がおってねか?」

 ※訳・昨夜汚物まみれになった人だね?美しい顔が台無しになって、体調悪くなってませんか?

 「せばここどかすっから、おっちゃんこして、食ってけばいっしょ」

 ※訳・それでは私達が席を変わります、ここに座って食べてってね♪なんちゃって~てへっ

 目玉も、金魚も呆気に取られてるから、きっと通じてないんだろね(笑)

 今のは北国の方言ってやつだよ、最近は使ってる人あんまいない。

 お年寄りたちの会話は、私達でも何喋ってるか、分かんない時がある。

 きっと、今の言葉を理解出来たのは、クレアだけじゃないかな?

 無言で、私と一緒に、隣のテーブルへ移ったよ。

 良かった、固唾を下げてくれて。


 食べかけの食事は、水魔術で移動してた。

 お皿一杯あったからね、こう見えてクレアは大食漢なのだよ、私はそうでもないけどね。

 それを見てた傲慢皇子は、クレアに興味が移ったらしくて、隣に座って来た。

 「せっかく席を譲ってあげたのに、なんでこっち来るの?」

 私の問いかけは聞こえなかったらしい、クレアに話しかけてた。

 「お前は誰だ?名を名乗れ」

 「そんな問いかけに、答えるクレアじゃないよ」

 「なんだと?」

 「………」

 ほらね、そっぽ向かれてる。

 「初めまして、私はカルティア・オルテンシア。その子は従姉妹のクレアナ・エルピーダ、内気だからあんま喋らないの。で、あんたは誰?」

 わざとらしく聞いてやったら、ムッとした顔してたけど、自己紹介してくれた。


 「聞いていなかったのか?俺はこの国の皇子だ。中等科の三年で、生徒会長をしている。クレアナ、生徒会に入れ」

 「何よいきなり、入る訳ないじゃん」

 「カルティア、お前には聞いていない。余計な口を聞くな」

 「断る!ティアに優しくない人、大嫌い」

 「………そうか」

 クレアに嫌われて、黙っちゃった(笑)

 さっきまでの威勢は何処行ったんだろ、お出かけしたのかな?

 しおらしくなっちゃって、何なんだこの男は、二重人格?

 王族とか、皇族って、皆こんな感じなのかね…

 皇女様は、私が立ち上がった瞬間、押し退ける様にして目玉の隣に座ってた。

 目玉の、あの恐ろしい表情を見て気にならないとか、強者だと思ったよ。


 そして昼食後は、この二人も加わって学園内を回った…なんでよ!

 「皇子様達は学園長から案内役頼まれてたけど、あんた達は授業出なくていいの?サボりじゃね」

 「まぁ、なんと醜い言葉使い。耳が汚れますわ」

 あ…皇女様とは、仲良く出来ないタイプなのね、残念。

 「マナー出来てなくて、ごめんね。私達の事は気にしなくていいよ、山から下りて来た、猿だとでも思ってて」

 「猿じゃなくて、ゴリラだろ」

 「ちょっと金魚の糞、聞こえてるぞ。あんなに賢くて優しい動物と、私達を一緒にしないで、大猩猩ゴリラに失礼だわ」

 「そうだ、失礼だ」

 「アッハッハッハ。可笑しな奴等だな、怒り方が違うだろ。そもそも普通の令嬢は、自身を猿に例えないだろ」

 傲慢皇子が、腹を抱えて笑ってる。

 「笑う所じゃなくね?」


 その後は普通に案内して貰って、お茶の時間に突入したんだけど、相変わらず主導権は傲慢皇子が握ってる。

 飲み物も、席順も全部自分で決めないと、気が済まないタイプらしい…

 そして、どうやらクレアを気に入ったようだ。

 「クレアナ、この茶は旨いだろう、東の商人から取り寄せている物だ」

 「抹茶でしょ、知ってるよ。練り切りと一緒に飲みたいよね、洋菓子には合わないわ」

 「何故、カルティアが答える。俺は、クレアナに聞いているんだぞ」

 「クレア無口だもん」

 「クレアナ、観劇は好きか?今流行りの…」

 「観劇って、劇場でやる奴?何時間も椅子に座ってるんだよね、無理だわ」

 「カルティアには聞いていないと、何度言えば分かる。少し黙っていろ」

 「クレアの事なら何でも教えてあげるのに、私を敵に回していいの?」

 「いや………それは…」

 また黙っちゃった、変な奴。


 傲慢はほっといて、気になったのは、お上品なアルフレッド皇子様達なんだよね…

 ずっと無言で私達の後ろを、使用人みたいにして付いて来るの。

 今も離れたテーブルに着いてて、こっちの様子を伺ってるだけだし。

 帝都へ来る前に、暗殺者からある程度の状況は聞いてたけど、想像以上に酷い扱いだわ。

 それに、朝からずっと気になってたんだけど、お上品皇子様がおかしい。

 生き物の気配が、感じられないの。

 初対面の時とは、別人みたい、てか人形みたい。

 何かのスキルなのかな?

 だったら、詮索するのは失礼だよね。


 目玉?

 目玉はね、金魚の糞と一緒に、滅茶苦茶怖い顔して皇女様の話聞いてるわ(笑)

 どうやら彼女は、目玉が気に入った様だ。


 留学生活初日が終わって、やっと解放された~

 部屋に戻って、ポチを抱きしめお茶を飲む。


 ちょっとここで、頭の中を整理しようか。

 帝国の皇帝は、現在55歳、三人の妃が居る。

 皇后55歳、第一皇妃50歳、第二皇妃38歳。


 皇后との間には息子が一人、現在病気療養中になっている、皇太子殿下35歳だ。

 第一皇妃との間には娘が二人居たが、帝国は男子にしか皇位継承権を認めていないので、嫁に行って皇族席から抜けてる。

 そしてユリアン腹黒第二皇妃にはエイドリアン傲慢皇子15歳と、アビゲイル皇女13歳が居る。

 私達と同学年の、アルフレッドお上品皇子は、皇太子殿下の息子だ。

 つまり、アルフレッドお上品皇子が産まれなければ、時期皇帝は、エイドリアン傲慢になる筈だった。

 ややこしいな…


 皇太子殿下は、復帰出来ないって、言われてるからね。

 ユリアン腹黒第二皇妃は、エイドリアン傲慢皇子を時期皇帝にしようと、今でも企んでる。

 そして、何故私に暗殺者を送って来てたのかは、よく分からない。

 それはさて置き、この宮殿はユリアン腹黒皇妃に牛耳られていた。

 なんで?

 皇后は全くの無関心で、皇太子妃は政務に忙しくて、姿を現さないらしい。

 お陰で、アルフレッドお上品皇子様は、肩身の狭い思いで過ごしてる。

 あの人形みたいなスキルは、身を守る為の物かもしらん。

 お家騒動なんて、よくある話だもんね。

 大変だなって思う。


 そう言えば…皇太子殿下って療養中になってるけど、何時からなんだろ?

 誰が面倒を見てるのかな…

 皇太子妃は、何処で政務をしてんの?

 皇太子殿下の分もお仕事してるらしいから、顔を出さないのは仕方ないのかね?

 第一皇妃は、何処行ったんだろ、噂も聞かないな…

 一番権限が無い、ユリアン腹黒第二皇妃を野放しにしてんのは、何で?

 この皇宮の宮仕え達は、何を考えてんだろ。


 学園での態度を見てたら、傲慢とお上品の関係も、複雑そうだよね…

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