第33話 格の違いを見せてあげるよ

 一番早く終わりそうな呪術師の横で待つ事30分。

 「ちょっといいですか。このホールに何人居るか知りませんが、一体何日かけて尋問する気なの?」

 呪術師は、私の方を一瞥した後、鼻で笑った。

 「余所者は大人しく待っていろ。それとも、自白する気になったか?今なら苦しまずに、首を落として貰えるぞ」

 こいつ…何で金枠なんだろ、爵位みたいに、お金で買ったんかな?

 だとしたら、凄い度胸の持ち主か…

 只の馬鹿の、どっちかだわ。

 だってさ、あんま言いたく無いけれど、王国屈指の実力者には見えないんだもの。

 


 「あんた…金枠のバッジ付けてるけど、それって本当に皇帝陛下から頂いたもんなの?この程度の人数も捌けないのに、恥ずかしいですね。能力足りてないんだったらさ、私が手伝いますよ?」

 そう言って、左耳にぶら下がってるバッジをピンッて指で弾いた。

 私が付けてるのは銀枠だけど、剣術以外の色を持ってる。

 四冠持ちってやつだよ、こう見えて出来る奴なんだよ私!フフン(ドヤ顔)

 「お飾りのバッジを貰ったからと言って、調子に乗るな!呪術師の本質も分からない小娘が、口を出す等烏滸がましいぞ」

 「そんな事を言われても…金枠の呪術師が三人も居て、まったく終わる気配が無いんですから、無能だと思われても仕方ないですよね~」

 不思議そうに、小首を傾げてかわい子ぶってみた。

 「あはははは」

 クレアに笑われてしまったけど、やっと挑発に乗ってくれたみたい。


 「はっ!弱小国の小娘如きが、お遊びで貰ったバッジで傲慢になりおって!我が帝国を馬鹿にした罪は重いぞ」

 そう言って攻撃の呪印を結び出した…

 「東の………青龍………」

 「え?」

 私が驚いたのを都合よく勘違いしたのか、したり顔で続けてるんだけど…

 「西の………白虎」

 「呪印結び終わる迄、待ってなきゃならないの?時間の無駄だよね」

 私が目玉に問いかけたら、頷いてくれた。

 お墨付き頂きました!

 どっちが早く終わるかな?



 「夢の内 絶望の内 光の内 闇の内」


 私が尋問の呪印を結んだら、目の前の呪術師が固まった。


 「理想を見て現実を知り、朝日を浴びて月夜に眠る」


 金枠の呪術師さん、呪印止まったままだよ、いいの?

 急がないと、私の呪術にかけられちゃうよ?


 「真正、無意識の泉に、その心を写し出せ!」

 私を、審議中の赤い光が包み込む。

 目玉が私の額に触れて、先程同様正当な権利として、認めてくれた。

 審議中だった、刻印の赤い光が消えたよ。


 呪術師から「そんな馬鹿な」って呟きが聞こえたけど、私の勝ちだね。ホールに居た全員に、呪印を刻んでやった。


 「あははっ!お飾りのバッジは、あんた達だったね呪術師さん。早く終わらせたいから、皆、正直に答えてね。に、薬盛った人は、だ~れ?今直ぐ私の前に、出て来い」

 そこは、敢えてとは、言わなかった。

 私にとって、あの女がどうなろうと、関係ない。

 下剤盛った犯人探しを手伝う気なんて、最初からあるが訳ない、だって犯人私だもの。

 ムカつくのは、目玉に対するここの連中だよ!

 お上品な皇子様に対してもそう、叩けば埃が出て来る事位、暗殺者からの情報で分かってんだ。

 さっさと出て来い、ピエロ共!!!


 「マジか!」

 思ってた以上に、人数が多くてビビったわ。

 さっき私達に下剤飲ませたり、目玉に惚れ薬飲ませた奴らは、分かるけど…

 一番遠くに居た呪術師迄前に来たのは、何で?

 不思議に思ったから、意地悪く聞いてみた。

 「さん、抵抗しても良かったのに…もしかしてに、逆らえなかったの?」

 「ふざけた真似を!今すぐこのトラップを解きなさい」

 「残念だけど、トラップじゃないのよ?!呪術に逆らえなかったんだね、そのは、だったかな?で、何時、誰に薬剤を盛ったの?」


 「そ…それは…アルフレッド皇子に、スコーピオン・フィッシュから抽出した毒を…皇位継承の邪魔だと…お茶に混ぜる様……薬術師から……グフッ」

 また、薬術師?

 いざって時の為に、自害用の呪印迄、刻んでるとか…用意周到です事。

 ポーションを取り出して、呪術師を回復させたよ。

 「ねぇ、私って医術師だし、薬術師でもあるの。目の前で自害しようなんて、無理だからね。大人しく看取ってくれるとでも思ってた?」

 にっこり笑って続きを促す。

 「スコーピオン・フィッシュって言ってたけど、あの魚は猛毒だよね?気付かれない様、毎日摂取させる為には、知識と技術が必要なんだけど、知ってる?その薬術師は、誰に命令されたの?」

 薬術師は、腹黒に命令されたんかな?

 それにしても、毒草じゃなくて、スコーピオン・フィッシュを使うとは…

 相当な技術を持ってる術師だよね、そんな人が皇妃の傍に居るのって、厄介だな。


 一回失敗したからなのか、もう自害する手段は持ち合わせてないのか?

 呪術師が素直に話そうとしたら、今度は窓ガラスを割って私目掛けて毒矢が飛んで来たけど、何故か目玉が割り込んで来た。

 「る~い、邪魔」

 毒矢は、目玉に刺さる前に、クレアが掴んでたよ。


 「あ…ごめんね」

 「おい金魚、お前もお飾りかっ!この程度の毒矢に反応出来ない護衛なんて、腑抜け以外の何物でもない!何時も視覚に頼るなと、言ってるでしょ」

 「グッ…面目ない…」

 「全く、しっかりしてよね。鍛え直しだな」

 後で毒矢の事、確認しなきゃ…

 気を取り直して尋問しようとしたんだけど、目玉に止められた。

 

 「アルフレッド皇子に毒を盛るとは、聞き捨てならない。私の方から、一部始終を報告しよう。嘘偽りは認めない、ここに記録映像がある事を、覚えておけ。それから…」

 目玉はクレアから毒矢を受け取って、呪術師だけではなく、貴族達全員に見える用晒した。


 「私達は、国賓としてこの国に招かれた。彼女は我が国で四冠を成し遂げた、将来を期待されている大切な重鎮。その命を狙うとは、許し難き重罪。並びに、宮仕えにより茶に薬剤を入れる等の不躾な対応。確固たる証拠も無いまま、謂れのない罪を着せる為としか思えない尋問の場に連れ出すとは、言語道断。ルイフォード・フォティア・マルス・ドメスティカの名において、国際法に基づき帝国を訴える意思がある事を、ここに宣言しよう!」

 「「え?」」

 そこまでしなくても…

 目玉の目が据わってる事に、今更ながら気が付いたけど、遅すぎたわ…

 これじゃ国に強制送還されても、文句は言えないよね。


 あれ…そしたらお忍びで来ればいいから、留学の件も無くなるし一石二鳥?

 ほほ~う、目玉はそこまで考えてくれてたんか、流石だ。


 「カルティア・オルテンシア伯爵。ご苦労だった、彼らを開放してあげるといい」

 「あ、はい只今」

 私は彼らにかけた、呪術を解いて、目の前の呪術師に話しかけた。

 「他国の事に首突っ込む気無いし、私達が犯人じゃない事は証明されたでしょ。これ以上手伝う必要は、無いよね」

 身体の自由を取り戻した事で会場がざわついたけど、目玉は無言でホールを出たから、私達も付いて来たよ。


 「ねぇ、もしかしてさ、もの凄~く怒ってる?」

 恐る恐る聞いてみた。

 そしたらね、めっちゃキラキラ王子スマイルが帰って来たよ。

 やっぱ怒ってた。

 「ティア、僕はね、自分の事はどうでもいいんだよ。何を言われても、何をされても、我慢出来る。でもね、大切な人達を蔑ろにされたり、傷付けられたりするのだけは許せないんだ。分かるよね?」

 これは、逃げた方がいいかも~

 おっかないんだわ、その笑顔が!


 「返事が無いね、いいかい?もう一度言うよ。大切な人を、傷つけられるのだけは、許せないんだ。君達は、僕にとって家族同然なんだよ、分かっているかな?」

 「「はい、分かりました」」

 「うん、分かってくれたならいい。それと、僕の為に怒ってくれた事は、とても嬉しかったよ。だけど、父上が言ってた言葉は、覚えているかな?」

 めっちゃ爽やかな笑顔を向けられてしまった、パーティで腹黒に下剤盛った事を、怒ってるのか…

 確かにバレたら即行首が飛んでただろね、命を優先しなさいって言われてたのに、自ら危険に飛び込んでしまった…

 「「心配かけて、ごめんなさい」」

 この後、ガッツリお説教されたのは、言うまでもない。


 「ティア、クレア、僕は君達の足元にも及ばない程脆弱だ。それは、痛い程、身に染みている。頼りにならない部分の方が多いのも、認めよう。それでも、幼い頃から受けて来た、王族としての教養がある。それだけは、誰にも負けないと自負している」

 「「???」」

 最早、目玉が何を言っているのか、理解出来なくなって来た。

 「………こんな僕では、頼りがいが無いのだろうか?」

 「「そんな事無い!」」

 「そうか、それなら良かった。今日はもう遅いから、ゆっくり休んでね、おやすみ」

 「「おやすみなさい」」

 

 

 私達はそそくさと、部屋に戻って来た。

 「る~い、怖い」

 「ルミア様にそっくしだよ、父親似じゃなかったの?」

 まだ心臓がドキドキしてる。

 「詐欺だ」

 「確かに…日頃の目玉からは、想像も出来ない程の威圧感があったわ」

 「うん」

 「お茶でも飲む?」

 「そだね、落ち着こう」

 私達は、ミラ伯母様特製のブレンド茶を淹れて飲んだよ。

 身体の隅々まで満たされてくわ~美味しい。


 「ところでさ…あの毒矢、何で飛んで来たと思う?」

 「分かんない、謎」

 「だよね…」

 私達はポチを見つめたけど、気持ち良さそうに膝の上で眠ってた。

 間違いなく、犯人はポチだ、人じゃないけど…

 でも、万が一にも、私を狙う事は無いんだよ。

 実際殺意なんて無かったし、毒矢は目玉が反応出来る位、のんびり飛んで来てた。

 多分…ポチに頼んで、帝国を訴える為の、自作自演を企てたんだと思う。

 なんで今?


 気になったけど、真相を確かめるのは、止めておこう。

 きっと、何か考えがあっての事だと、思うから。

 触らぬ神に、なんとやら…だ。

 

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