オムレッツ

@kyodenmoti

春は...

悲劇である。

私にとってそれはとても悲劇である。


-3時間前-


僕はコンビニエンスストアに向かっていた。どこか憂鬱な、いつもと変わらない一日だった。


僕の名前は曙。珍しい名前だ。僕は近所に住むガードレールおばさんの作る卵料理が大好きで、彼女の料理は毎回僕の心を満たしてくれる。ちなみに、彼女は「ガードレールおばさん」と呼ばれているが、本名は知られていない。ただそう呼ばれているだけだ。日増しに卵への愛が深まる中で、ある小さな出来事が僕の運命を変えた。


コンビニのスイーツコーナーで、ふと「オムレット」と書かれたスイーツが目に入った。オムレット、オムレッツ、オムレツ…と、僕の頭は連想ゲームのように卵のことばかり考え始めた。卵に取り憑かれた僕の脳はすでに、オムレツを口にする準備ができてしまっている。ならば作ろう、オムレツを。


-1時間後-


オムレットというスイーツの正体は、卵白をたっぷり泡立てたふわふわのスポンジケーキに、生クリームや果物を包んだもので、どこか気品さえ感じる。だが僕の頭はすでに、「オムレツバージョン」を考案していた。卵黄を泡立てて薄い円形に焼き、ケチャップや具材を包んで完成させる。ガードレールおばさんなら、きっと作ってくれるに違いない。


「おばさま、オムレッツを作ってください。」 「いいわよ。少し待っていなさい。」


そんな会話を交わし、期待は膨らんだ。


-5分後-


「曙よ、オムレツができたわよ。」


僕はその言葉に目を疑った。出てきたのはただのオムレツだ。仕方なく食べると、確かに美味しい、だがこれではない。そこで僕は、おばさんにオムレッツの詳細を説明し、彼女も改めて作り直してくれた。


-さらに10分後-


ようやくイメージ通りのオムレッツが完成した。ふわふわと軽やかで、理想の仕上がりだ。満足した僕は、レシピをしっかり書き留めるために一度自宅に戻った。


-現在-


悲劇である。私にとってこれは紛れもない悲劇だ。僕の考案したオムレッツが、ガードレールおばさんの手によって口外され、なんと彼女の夫、苦労ジジス(そう呼ばれているだけで本名ではない)が経営する店のメニューになっていたのだ。僕の大切なレシピが他人のものになっている。怒りが湧き上がり、僕はガードレールおばさんを激しく憎んだ。


証拠を見つけ、このオムレッツが僕の発案であると証明する方法を考えたが、妙案は浮かばない。その夜、夢にオムレッツの亡霊が現れた。彼はこう言った。


「店のオムレッツは苦労ジジスに盗まれたのだ。しかし、ガードレールおばさんを責めてはいけない。」


僕は答えた。「分かりました、オムレッツ様。」


-翌朝-


日の出前、僕は苦労ジジスの店に向かった。カウンターで「オムレッツを一つ」と注文する。すると目の前に運ばれてきたのは、まさしく僕の考案したオムレッツだった。思わずため息が出て、皿をひっくり返してしまった。


すると、皿の下に一枚の紙が隠されていた。そこにはこう書かれていた。


「この料理はオムレッツ。私の知的な知人が考えた料理です。」


驚きのあまり呆然としていると、苦労ジジスが口を開いた。


「この店で働かないか?君が考案者として。」



---


僕はその日から、苦労ジジスの店とともに人生を歩むことになった。この「オムレットの悲劇」を後世に伝え続けるために。


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