song 002

 僕は、今までの夢を諦めた。それはもうきっぱり諦めた。

 毎日蹴っていたサッカーボールはただの思い出となり、はかなくなったスパイクは自慢の天然カンガルー革がカチコチに固まり、ひび割れていった。


 僕には、持論があった。サッカーをする人には3階層ある。

『やらされているやつ』→『負けず嫌い』→『楽しんでいるやつ』この3階層だ。

 もちろん、『やらされているやつ』は『負けず嫌い』には勝てないし『負けず嫌い』は決して『楽しんでいるやつ』にはかなわない。

 そして僕はただの『負けず嫌い』だった。でも、負けを認めてしまった。上には上がいた。


 でも不思議と切り替えは早かった。6歳の時からサッカーが全てだったのに、サッカーを失ったあと、意外にもあっさり次の夢をみた。


 その新しい夢は、1997年9月1日 吉祥寺第六中学校で訪れた。


 2学期の始業式、隣のクラスの最前列にひときわ目を引くザクザクツンツンのパンクヘアで金髪の男がいた。

 たしか、隣のクラスの最前列、つまり一番背の低い男は山岡志斗ヤマオカ シドという男。なにやら、父親がバイオリニスト、母親がピアニストの姉が奏良ソラ、妹が玲美レミだとか。姉弟でソラ・シド・レミときた音楽思想の強い名前だ。シドの下が弟だったらなんて名前を付けたんだろうか?と考えたこともある。

 

 ただ、シドは髪型もさわやかな好青年という印象はあったけど、夏休みに何があったんだろう。そんなことを考えながら9月のまだまだ残暑激しい中の校長の話をやりすごしていた。


 そして、 校長の話を耐え忍ばせてくれた僕の疑問は、あっという間に解決した。

「キミもレディオヘッド好きなんだ!?」

 学校からの帰り道、そのザクザクツンツンの金髪パンクヘア男が、急に満面の笑顔で話しかけてきた。

「…レディオ?」

「うん。そのステッカー、OKコンピューターのだろ?」

 シドは僕のヘッドホンに貼っていたステッカーを指さした。このステッカーは吉祥寺の雑貨屋VILLAGE HEADQUARTERSヴィレッジ・ヘッドクォーターズでなんとなくカッコいいから買っただけのものだった。

「…いや、何となくカッコよかったから買っただけなんだ。」

「なんだぁ。この学校にレディオヘッドをわかるセンスの奴がいるかと思ってうれしかったのになぁ」

「…そのレディオヘッドってのはなんなの?」


それからシドは、レディオヘッドがイギリスのロックバンドであること、

1993年にデビューして世界的な人気を誇っていること、

今年の5月に『OKコンピューター』という3rdアルバムを発表したこと等を教えてくれた。


「明日CDもってきてやるから聞いてみてよ。レディオヘッドのよさがわかれば、人として一皮むけるぜ。」


 そしてシドからレディオヘッドの『パブロ・ハニー』『ザ・ベンズ』『OKコンピューター』の3枚のアルバムを借りて、MDにダビングしたところから、瞬く間に僕の音楽熱が上がっていった。


 でもまだそれは、"夢"でもない"嗜好品"だった。

 

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僕の記憶が薄れていくのが怖いので、彼の生きた道を記しておきます。 ミサト テルヤ @sakaioffice351

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