第7話 押し付けられた重責◆若手貴族当主ジェイミー視点

 両親に爵位を押し付けられたあの日から、俺の人生は一変した。


 領地の経営に連続で失敗し、もう立ち直るのは無理だと悟った両親。この困難は、若い力であれば乗り越えられるかもしれない、なんて一縷の望みをかけて俺に託したのだ。


 爵位を継ぐ前からわかっていた。俺だって、この問題を解決するのは不可能だと。


 他の兄弟たちも困窮する領地を立て直すなんて無理だといち早く逃げ出し、俺だけが貧乏くじを引かされた。


 誰かが継がないと、レイクウッド家の歴史は完全に終わっていた。でも、引き継いだとしても絶望的な状況でしかない。ただ少し、歴史が伸びただけ。無駄な延命処置でしかない。


 そうだとしても俺は、限界まで頑張ってみた。どうにかして、家を残す方法はないか。数々の問題を、一つでも解決する糸口が見つからないか。必死で模索する日々が続いた。




 ある日、パーティーに参加した時のこと。こんな所で時間を無駄にしている余裕はないけれど、付き合いで仕方なく参加しないといけなかった。


 ある程度だけ参加して、早く戻って仕事に取り掛かろう。そんな焦りがあったからなのか、無意識に近寄りがたい雰囲気を出していたのかも。話しかけてくる人なんて誰もいなかった。


 周りは盛り上がっている中で俺は一人、領地の問題について考え込んでいた。


「大丈夫ですか?」


 ふと、優しい女の子の声が耳に飛び込んできた。


「え?」


 声が聞こえてきた方へ視線を向けてみると、見知らぬ少女が心配そうな表情で立っていた。話しかけてきたのは、この女の子なのか?


「体調が悪そうだったので」


 彼女は、俺の顔をじーっと見つめながら言葉を続ける。俺を心配してくれている。


「大丈夫だ。心配してくれてありがとう、レディー」


 俺は、なんとか笑顔を浮かべて答えた。これで会話は終わるだろうなと思ったが、彼女はグイッと踏み込んできた。


「何か、お悩みがあるのですか? そのお悩みを私に聞かせてください」

「……」


 こんな女の子にも見抜かれてしまうほど、俺は感情と疲労を表に出してしまっていたみたいだ。こんなにも心配させている。話を聞かせて、と言われてしまった。


 彼女の澄んだ瞳に見つめられて、なんとなく話したくなった。普通は、自分の家の醜聞など明かしたくない。でも不思議と、名前も知らない少女に話しても構わないという気持ちになったのだ。


 それだけ、彼女が本気で心配してくれていると感じたから。そして俺は、自分が今抱えている苦労について、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。


 貴族当主を継がされてしまった、重圧と孤独を。


「実は――」


 こうして俺は、出会ったばかりの少女にレイクウッド家の窮状を明かした。かなり困窮していること。


 どうにか持ちこたえているが、あっという間に崩れ去ってしまいそうなほど危ういこと。何をするにも資金が足りない。それさえあれば、なんとかできるかもしれないのに。


 手持ちがないから、何も進まない。どんどん崩壊に向かっているだけ。


 そういう現実を、赤裸々に話した。


 その少女は真剣に耳を傾けてくれた。俺の抱える苦しみを理解しようとしてくれているのが伝わってきた。少しだけ、心の重荷が軽くなったような気がする。彼女には感謝しないと。


「なるほど、そうだったのですね」

「ええ、そういうことです」


 その女の子は、俺の話を聞き終えると言葉少なに頷く。そして、俺は返した。これで今度こそ、お話は終わり。そう思ったけれど、また。


「でしたら」

「ん?」


 彼女が口を開いて、何かを言う。何を言う?


「私の持っているエルドラド鉱山を、あなたにお譲りします」

「は?」


 いきなりの提案に、俺は目を丸くした。

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