第2話 贈り物の連鎖
屋敷に戻ってきた私は、婚約破棄について報告しなければならない。だけど、報告すべき相手は今この屋敷にいなかった。
お父様は仕事で遠方に出張中で、しばらくは戻ってこられない。お母様は幼い頃に天国へ旅立たれた。だから、今この屋敷で話を聞いてくれる人は居ないのだ。
お父様が戻られた時に、ゆっくり事情を説明しよう。
「お嬢様、いつものお返しの品が随分と溜まっておりますよ」
屋敷に戻った私に、侍女のエミリーが声をかけてくる。エミリーは幼い頃から私の世話をしてくれている、心優しい女性だ。いつも私のことを気にかけ、さりげなく支えてくれる存在だった。
「まあ、大変。すぐに確認しなくては」
そう言って私はエミリーや他の侍女たちを引き連れて、お返しの品を保管している部屋へ向かった。
扉を開けると、そこには山のように贈り物が積み上げられている。一面に所狭しと並べられた品々を見て、私は驚いた。キラキラと輝く宝石類、上品な装飾が施された小物入れ、手の込んだ刺繍が美しいドレス。
どれも一つ一つ丁寧に作られた、気の利いた贈り物ばかりだ。
「また、増えているわね」
前回の整理から日が浅いのに、またこんなに増えている。このまま増えていくと、屋敷に収まらないほどの量に達してしまいそう。
「それだけ、お嬢様が慕われているのですよ」
こうして改めて目の当たりにすると、その量の多さに何度も圧倒される。
私はこれまで、多くの人に色々な物を贈ってきた。私が持っている物が欲しいと言ってくる人たちに、どんどん差し上げていった。
その人の求める気持ちが本物だと感じたなら、私はその願いを叶えようとしてきた。時には失敗もあったけれど、それ以上に多くの笑顔を見ることができた。
彼らは感謝して、お返しの品を送ってくれた。それが、私の目の前にある贈り物。ここに置いてある品の他にも、私は多くのものを受け取っていた。
お返しは大丈夫だと言って遠慮しても、みんなが次々と贈り物を返してくれる。本当に優しい人と巡り会えてきた。
だから私は、これからも人の求めに応えていこう。そう心に誓いながら、私は贈り物の山に向き合うのだった。
私は受け取った贈り物を、まずは自分で使ったり鑑賞したり、大切に飾ったりする。そうすることで、贈ってくれた人の気持ちに応えられると思うからだ。
そして、しばらくして欲しい人と出会ったら、今度はその贈り物をプレゼントする。最初に私に贈り物をしてくれた人は、そこまで了承済みだった。
巡り巡って、欲しい人のもとへ届くように。私は、そこまで繋げる中間地点のような役目だと思っている。それは、とても素敵なこと。
だから私は、これからも人の求めに応えていこう。そう心に誓いながら、私は贈り物の山に向き合うのだった。
「さぁみんな、この贈り物の確認を手伝って」
「もちろんです、お嬢様。早速、取り掛かりましょう」
それから手分けして、私たちは贈り物を整理していく。今回も、本当に素敵な品々ばかりだった。
私は一つ一つの贈り物に込められた優しさに触れながら、いつの日か誰かの笑顔につながりますようにと願うのだった。
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