モノクロ世界の怪異譚
灰頭巾
この世ならざるモノ
第1話 未知との遭遇
高校から帰宅後、徒歩で約十五分。
ピカピカの名札を制服に付け、呼吸を整える。
「だ、大丈夫…。私ならできる。」
家の近くにある某コンビニにバイトの面接を受け、合格を貰ってから早数日。
このコンビニでの初出勤が迫っていた。
とある事情があり、お金に困っている身としては時給が良く、家から歩いて行けるこのコンビニは都合が良かった。
「
「あ、はい。」
…ええい、くよくよしてる場合じゃない。
バイト初日、頑張るぞ!
「…そう思っていたのに。」
鬱屈とした気持ちで夜道をプラプラと歩く。
結論から言えば、私はバイトをクビになった。
しかも、初日で!
コンビニのレジに立った私を待っていたのは、厄介客のオンパレード。
何度温めても弁当が冷たいと難癖をつけてくるババァ。
何度も番号で言ってくださいと言ってるのにタバコを番号で言わないジジィ。
パンに虫が入っていたと凄んでくるヤンキーや、その他諸々。
バイト初日から害悪客達に絡まれた私の精神はゴリゴリと削れ、ミスを連発。
卵を電子レンジに入れて、破裂させたり。
タバコの値段を数倍にして会計をしたり。
客が怖くてコンビニに警察を呼んで大騒ぎを起こしたり。
その他にも色々問題を起こし、店長からクビを言い渡された。
…正直に言って納得できない。
バイトの求人には、客は優しいって書いてあったじゃん!
仕事は先輩がサポートするって、面接で言ってたじゃん!!
こんなの私は認めない。
認められるわけがない。
だって今回のクビを認めてしまえば、私は………。
「今回でバイトをクビになった回数は…十回?夢か?」
…私は最初、こう言ったな?
このコンビニでの初出勤。
……つまり、そういうことです。
◇
はぁ〜い!ちゅーもーく!
バイトを十回もクビになった女!
バイトに受からず、求人に落ちた回数ならその数倍はありまーす!
みんなよろしく〜!!!
………はぁ。
「これからどうしよう…。」
…またバイトを探せばいいじゃんって?
いやいやいや。
さっきも言ったけど、私はバイトを十回はクビになってる。
しかも、求人に落ちた回数を含めればもっとだ。
それだけでも最悪なのに、私は極度のコミュ障。
運よくバイトに受かっても、一日も持たずにクビになる。
さらに!私の容姿は髪が真っ白で瞳は紅く、肌は病的なまでに白い。それと日光に弱い。
どう考えても
こんな人材をどこが雇ってくれるって言うんだい?
「…でも、なんとかバイト先を見つけないとなぁ。」
私と妹は物心つく前に両親が亡くなり、義母の家に預けられたらしい。義母は私と妹のことをよく思っていないのか、ろくに口も聞かない。
最近は朝から香水の匂いを振りまいて、家を空けることも増えてきた。そんな義母を見限ったのか、妹はこの家に帰ってこなくなった。
妹から毎日連絡はしてくるし、ネットを見る限り、友達の家に泊まったりして楽しく過ごしているようだ。
でも、一人はさみしいから妹に帰ってきてほしい。
なので私は義母に頼れなくなった今、妹が帰ってきた時に困らないようバイトをしてお金を貯めようとしているのだ。
「またバイト探し頑張るかー。」
そう呟いて気合を入れたその時。
「…何あれ?」
視界の端に写ったのは瓦礫の山。
近づいてよく見てみると、祠が崩れバラバラになっていた。
瓦礫の横に金槌が落ちていて、それで祠を壊したのだと分かった。
「ひぇ〜。罰当たりなやつもいたものね。」
この道にポツンと立っていた祠。誰がなんのために作ったのか一切わからない物だったけど、この道に良く馴染んでいた。
「お供え物なんかも散らばってるし、…片付けといた方が良いよね?」
流石に見逃せず散らかった瓦礫やお供え物を一箇所にまとめていく。
…なんてもったいない。
旬の果物や和菓子、今年取れたばかりの新米まで散らばっている。
これをスーパーで買ったら幾らになると思ってるんだ?
そんな事を考えながら一人で黙々とで片付けを始める。
辺りはしんと静まり返り、肌寒い空気に満ちている。
祠という神聖な物が壊されている現状と相まって、自分が別世界に取り残されたかのような状況に背筋が寒くなってきた。
「…は、早く帰ろう。」
祠の瓦礫と散らばったお供え物を一箇所にまとめ終え、足早にここから立ち去る。
…壊れた祠のことは、誰かがなんとかするでしょ。
そんなふうに考えながら家に向かって歩き始めた。
「…おかしい。」
帰路についてから約十分、私はかなりの違和感を抱いていた。
この十分間、誰ともすれ違ってないし、声も聞こえないんだけど?
ここが田舎とかだったら分かるけど、私が住んでいる場所はかなりの都会よ?
夜中でも声が途切れることは滅多にないし、人通りだって多い。
…だから、こんなふうに誰の声も聞こえないなんてことはあり得ないし、人の姿すら見えないなんてことは、もっとあり得ない。
「…ふぅ〜。落ち着け私。」
人がいなくなった理由があるのかもしれない。例えば、そう、避難してるとか。
私の知らない間に、地震が起きていて、大津波警報でも出たのかもしれない。
それか、某国のミサイルがここに着弾するのかもしれない。
新型のウイルスが蔓延した可能性も有り得る。
…とりあえず、ここは文明の利器スマホの出番。
コイツがあれば、一発で何が起きているか分かる優れモノ。
「ネットニュースでも見れば、すぐ分かるでしょ。」
そう考えてスマホを取り出す。
そして、何が起きているか調べようとすると、
「…は?圏外!?」
いやいやいや、あり得ない!
毎日普通にスマホは使えてたし、ここが圏外になるなんて話し聞いたことがない。
スマホを穴が空くほど見つめるも、圏外という表示は変わらない。
流石に気味が悪くなり、体が硬直する。
…なにか得体の知れないことが起こっている。
だって、こんなの明らかにおかしい。
「…は、早く帰らないと。」
恐怖に駆られ、家に向かって走り出そうとした時。
「―――ニ クイ」
後ろから聞こえてきた声に、私の足は止まった。
「ユ ルサ ナ イ」
私のすぐ後ろから聞こえる、怒りと殺意が込められた声。
小さく、途切れた声だが、私の耳にはっきりと聞こえた。
「ウ ラ メシ イ」
立ち止まるべきじゃなかった。
すぐにここから離れるべきだった。
私はそう考えながらも、ゆっくりと後ろを振り返ってしまう。
目が自然と見開くのが自分でも分かる。
最初、目に写ったのは血塗れの刀を握る男。
顔と体は甲冑に覆われていているが、胸に刀が突き刺さっている。
徐々に自分の顔が引きつっていくのを自覚する。
紅いオーラを身に纏い、兜の隙間から鋭い眼光が私を貫く。
――怪物
そう脳が判断したと同時に。
怪物は刀を振り上げ、呟いた。
「…コ ロシテ ヤル…」
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