第54話 松原8丁目の真実?


「イヤアアアアアイ!!」


 穴だらけになった鈴木家の一階を、猛スピードでサイボーグが修理している。

破損した部分をスキャニングし、自身に内蔵されている3dプリンターで壁の破損部分を印刷したら、器用にパテで埋め込んでいく。


 その隣で、チャックパパが筋トレと、回し蹴りの練習をしている。


 ペンギンは、ザギンでシースーに行くと言ってどこかに行ってしまい、ザリガニは「修行中の身故、数年は『通い婚』をさせていただきたい」と言い、

意味ありげなイモリの乾物をおいて赤堤に帰って行ってしまった。


 麻由は、家にいられなくなり、一人で神社に行った。

すでに、宏明の存在は家ではなかったものにされていた。それが耐えられないほど悲しかった。

神社にも誰もいない。カエルのマユちゃんが来てくれると思ったが、ここにもいなかった。もしかしたら冬眠してしまったのかもしれない。


 松原にいる生物は、人も怪異も麻由に優しかった。けれどもやっぱり何かがおかしい。

神社に生えている銀杏の木のてっぺんで、金目鯛文鳥が「オエオエオアー」と鳴いていた。神社の池には、文鳥金目鯛が「ブンキン! ブンキンキンキン!!」と鳴いていた。


 麻由は、神社の境内に腰をかけ、長野に帰る事を考え始めていた。

今度は、筋肉たちが道を塞いでもなんとか抜け出して、とりあえず新宿を目指すのだ。そうすればきっと長野に帰れる。

麻由の頬を、冷たい北風が通り過ぎていく。


 ……とそこに、


「麻由さん」


 突然声をかけられ、麻由は視線を向けた。そこには……

いやに顎のしゃくれた、青いズボンとサスペンダー姿のパンダがいた。

銀杏の木に半分隠れている。


「初めまして。サスペンダー・プリテンダー・シャクレパンダーです」


 パンダの方はいたって真面目なのだろうが、如何せん顎がしゃくれすぎているので、ふざけているように見えた。

それがコンプレックスで、隠れているのだろうか。


「……鈴木麻由です」


 麻由は丁寧にお辞儀をした。


「麻由さん、あなたにお伝えしないとならないことがあって参りました」


「なあに?」


「この街の正体です」


「……え?」


 麻由は立ち上がり、パンダの方に近づいた。すると……


「おいそこの君!!」


 確かに数秒前までパンダだったはずのそれは、突如として『お尻』になっていた。


「(プスン!!)……すまん。 そこの君!! 今そこに悪いパンダはいなかったか! (プー)すまん!」


「え……え……」


「(プリプリポー)お嬢ちゃん! ここは危険だ! 悪いパンダが徘徊している! おうちにかえりなさい!(ププ……プップクプップップー!!)すまん!!」


 麻由は、意味もわからずとりあえず尻のいう通り、家に帰ろうとした。すると……


「麻由さん」


 また『パンダの方の声』が聞こえて、素直に振り向いてしまった。


「大事なお話があるのです! 聞いてください! この世界は現実世界ではないのです!」


「……どういうこと?」


 麻由が再びパンダに数歩近づくと……


「君ーーー!!」


 また『尻』が飛び出てきた。


「ダメじゃないか!! (プスン!)すまん! ここは危ない! 危険なパンダが徘徊しているんだ!! (ゲリピー) ……すまん。

 汚い『おなら』をひっかけられるぞ! 今すぐ逃げるんだ!!(ブブブ)すまん!」


 麻由は、すでにこの『尻』のことが嫌になっていた。逃げられるなら素直に逃げたい気持ちでいっぱいだった。しかし、

『パンダの方』の言っている言葉がどうにも引っかかってしまう。

麻由は試しに後を向いてみた。ややあって……


「麻由さん」


 麻由の想像通り、麻由がパンダの方を見なければ『お尻』の方はやってこないようだ。


「なあに?」


 麻由は、背中でパンダのいうことを聞くことにした。


「この世界は、『とある人物がある理由で作った』、現実とは多少異なる場所なのです。麻由さん現実のあなたはここにはいないのです。

 お父さんも……そのとある人物の居場所は……最初はこの神社の地下でした」


 麻由は、辛抱強く聞いた。おそらく、この直後に麻由の知りたかった事実が告げられる。麻由の本能はそう感じていた。


「そのとある人物の居場所は……」


 麻由は唾を飲み込んで辛抱強くきいた。


「………君ーー!! そこで何をしているんだ!!」


 麻由の背中に、柔らかい(そして臭い)お尻が密着した感覚がした。


「君! 本当に危険なんだここは!! (ブブブピー!)……すまん! 

 くっさい目に遭うぞ! 今すぐ帰るんだー!!(ブリピー!)すまん!」


「もうやだ!! 助けてパパ!!」


 もうやだ、助けて、パパ。その声は十二月の澄んだ北風に乗り、声を遠くに運んでいった……。

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