第33話 毒蛇 上
「パパ! 助けて!!」
夕暮れ過ぎの松原、鈴木家の庭から一人娘が自分に助けを求めている。
ハイかしこまりました! どうせ! 怪異ですよね!?
お任せください! 弊社怪異に関しましてはうんざりするほどの実績があります!!
怪異でトラブルの際は、ぜひ、ゴーストバスターズ鈴木宏明にお任せください!!
宏明は、勝手口の扉を開けた。
…… ……
「シャアアアアーーー!!」
体長2mの顔でか胴長短足口悪円形脱毛症猫が、大泣きしながら、庭の入り口の宏明に突進してきた。
……猫の全長が2mだとするなら、このヘビの全長は4m近くあることになる。
4mの、見たことのない緑と赤と黒のまだら模様のヘビが猫の全身に巻き付いている!!
「ウワァァァ!!! く、くるなーーー!!!」
宏明は思わず家の中に逃げ込んだ。ヘビを巻きつけた猫が追いかけてくる。
宏明にはどうしてもダメなものがあった。
それは、インゲンを食べた時に口の中で響く「キュ キュ」というインゲンが歯を滑る音、
もう一つが、ヘビである。
「オマエ、逃げるなジャン!! 助けるジャン!!」
目から涙を撒き散らした猫が、一体何を、どうしたら、こうなったのか、
全身にヘビをグルグルグルと巻き付つけて、宏明を追いかけてくる。
宏明は思わず自分の部屋に逃げ込み、扉を閉めた。
「開けるジャン!!」
猫がガチャガチャと扉のノブを回そうとするのを、両手でノブをしっかり押さえて阻止した。
「無理無理無理無理!!」
「助けるジャン!!」
「すまんが諦めてくれ!!」
「パパー!」
麻由も、宏明の部屋の前まで走ってきた。
「パパ! 猫ちゃん困ってるの! 助けてあげて!!」
「残念だが、そうなってしまってはその猫は手遅れだ! 諦めてくれ!!」
「イヤジャン!!」
「もういい! 猫ちゃん麻由が助けたげるね! ……パパのバカ」
「あ! ヘビに触るな麻由!!」
麻由が立ち去ってしまう気配を察して、宏明は思わず部屋の扉を開けてしまった。
すると怪異猫Withヘビが部屋に雪崩れ込んできた。
「ひぃ!!」
宏明はベットの上に避難した。
大ヘビは、うにょろうにょろと、猫の全身に鎖のように巻き付いている。
時々、真っ赤な舌がピロピロ……と出る。
猫も宏明も、小さくなって固まってしまい、にっちもさっちも行かなくなっていた。
すると、猫の全身に頑なに巻き付いているヘビが、
「ハァ……」
と憂鬱そうなため息をついた。
「辛いなー辛いなー……っつってねぇ」
憂鬱そうに、ヘビが喋った。
と、麻由が宏明の部屋に入ってくる。
「ねえ、猫ちゃん困ってるの。離れてあげて」
麻由の、ヘビに対するネゴシエーションが開始された。
ヘビは、憂鬱そうな表情を崩さず、
「それが難しいなー難しいなー……っつってねぇ」
「なんで」
「頑丈に絡まっちゃったなー、ほどけないなー、辛いなー……っつってねぇ!」
言い切ると、ヘビは、『ドヤ』と麻由を見た。……何がドヤなのかわからない。
麻由から反応が返ってこないとわかると、ヘビは憂鬱そうな顔に戻った。
「よりによって、くっさい猫に絡まっちゃったなー、臭いなー、臭いなー辛いなー
…… …… っつってねぇ!」
ドヤと、麻由を見た。
「じゃあほどいてあげてよ」
「それができたら苦労しないなー、あー辛いなー臭いなー辛いなー……っつってねぇ!
しんどいなーだるいなーっつってねぇ!」
「お前がダルいジャン!!」
「あーーこの猫、口も悪いなー酷いなーっつってねぇ。
ついでに口も臭いなー臭いなーっつってねぇ」
「もーーイヤジャン!!」
ヘビから、思わぬ毒を受けている猫が耐えかねて目から涙の噴水を出した。
涙の噴水をヘビがチロチロ舐めている。
「これは……しょっぱいなーしょっぱいなーっつってねぇ。
不味いなー辛いなーっつってねぇ。
巻き付いちゃった場所の環境悪いなー悪いなー……っつってねぇ!」
「じゃあ麻由が解いてあげるから。そしたら離れてあげて」
「そうしてほしいなーそうしてほしいなーっつってねぇ」
麻由が、ヘビを掴もうとすると、
「ああ!!」
宏明が思わず声を上げた。
「何」
「危ない! ヘビ! 危ない!」
「じゃあパパがやってよ」
「無理無理無理無理無理」
宏明は布団に丸まってしまった。
その姿を見た、麻由と猫は、失望の眼差しを向け、
「「ダメ(シャメ)人間」」
と、言った。
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