見た目女子とイケメン少女

風使いオリリン@風折リンゼ

見た目女子とイケメン少女 前編

 脇差山斗わきざしやまとは放課後の中学校の裏庭で、自分を呼び出した相手――他クラスの男子――が来るのを待っていた。腕時計を確認した後、大きなため息をついた。

「はぁ……またか……」

 こういうことはたまにあることだ。その度に、山斗は憂鬱な気持ちになってしまう。

 校舎の壁に寄りかかりながら、足元にいる蟻の行列を呆然と眺めていると、山斗を呼び出した張本人が少し慌てた様子で駆け寄ってきた。

 中肉中背のどこにでもいる様な雰囲気の男子だった。

「ごめん。遅くなって……」

「いや、別にいいよ。自分も今来たところだし……それで? 自分に何の用?」

 山斗がそう尋ねると、相手は途端に顔を赤らめながら、モジモジとしだす。

 ああ、やっぱり、このパターンか……。

 山斗がそう心の中で呟いたところで、相手は覚悟を決めた顔つきで山斗を見据えた。そして、

「脇差さん。好きです。俺と付き合ってください」

 そう言って深々と、頭を下げた。

「……ごめん」

 そんな彼に対し、山斗ははっきりと拒否の意思を示す。

「……そうだよな。俺なんかと、脇差さんみたいに可愛い女の子じゃ釣り合わないよな……」

「いや、違うんだ」

 ガックリと項垂れる相手に、山斗はそう声をかける。

「え? 違うって何が?」

「自分、男なんだ。こんな見た目してるけど」

「……え?」

 はぁ……。こういうやり取り、これで何度目なんだろう。

 ――告白してきた男子がフラフラしながら、山斗の元から立ち去っていく。あの様子では、失恋とは別のタイプのトラウマ――相手が男と知らずに告白してしまうというトラウマ――を与えてしまったみたいだ。

 そんな彼の背中を見送ってから、はぁ……と山斗はため息をついた。校舎の窓ガラスに映る自分の姿をまじまじと眺める。

 男子にしては長めの髪。ぱっちりとした目。やや丸みを帯びた輪郭。細身で小さな背。

 しょっちゅう女子と間違われる自分の姿がそこにあった。

 その上、山斗の声は電話に出ると女性と勘違いされる程に高い。

 さらには、山斗の通う学校は、『生徒の自主性を尊重した自由な校風』を目指しており、その一環として制服が存在しないため、男女共に私服だ。

 山斗は普通の男子中学生らしくパーカーとジーンズという装いだが、言う人に言わせれば、山斗のはボーイッシュな格好の女の子にしか見えないらしい。

 それらの理由から、山斗と接点のあまりない他クラスの生徒は山斗のことを女子と勘違いするものも出てきてしまうのだ。

「どうせ告白されるなら、女の子からされたい。例えば、先輩みたいな……って、あれは」

 窓に映る自分にぼやいていた山斗は、その向こう側の廊下を通った人物を見て、慌てて声をかける。

「剣崎先輩!」

 不意に呼ばれたその相手――剣道部の部長である女子生徒・剣崎珠美けんざきたまみ――は、キョロキョロと周囲を見回した後、外にいる山斗に気づいた。

「脇差、またお前か……」

「またお前か、なんて随分なご挨拶じゃないですか」

「この間も言ったが、何度告白されても私はお前と付き合う気はないぞ」

 珠美はやれやれと眉間を押さえる。

 先輩、どんな所作も絵になるなぁ……。先輩みたいな見た目になりたい。

 ショートカットの髪型にスラリとした長身で、凛々しい顔つき。宝塚の男役と言われたら、すんなりと納得してしまいそうなイケメン少女。

 それが珠美だった。

 山斗はその格好良さに惚れていて、会う度に珠美に告白しては振られていた。

「あれ? どうしたの? そんな所に突っ立って……」

 廊下の向こうからポニーテールの女子生徒がやってきた。珠美と同じ剣道部の副部長・花林はなばやしあやめだ。

 あやめは珠美の目線の先を追い、

「……ああ、いつもの後輩君か。キミも毎日精が出るね〜」

 ニッコリと笑顔を浮かべながら、そう山斗に声をかけた。

「ああ、花林先輩。お疲れ様です」

 山斗は丁寧に頭を下げて挨拶を返した。

「うんうん。やっぱり良い子だ」

 あやめは満足そうに頷くと、隣にいる珠美に向き直った。

「後輩君良い子そうだし、お試しで付き合っちゃえば良いじゃん」

「お試しで付き合うなんてそんないい加減な事ができるか。付き合うのならそういうのはちゃんとしたいんだ、私は」

 それに、と珠美は言葉を続ける。

「この子は、その……タイプじゃない。私のタイプはもっとこう大きくて筋肉隆々で私よりも強い人なんだ。この子とは対極に位置するような人がいいんだ」

 横で二人の会話を聞いていた山斗はガックリきてしまった。知っている事だったけれど、改めて聞くとやはり凹む。

 最初に告白した時に、「タイプじゃない」。そう言われて、振られたのだから。自分の見た目が改めて恨めしく感じた。

「なるほどなるほど。珠美は自分より強い人が好きなのか〜」

 あやめはうんうんと数回頷いた後、悪戯っぽく珠美に笑いかけた。

「じゃあ、この子が珠美と勝負して勝てたら、この子にもチャンスがあるって事だよね?」

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