side蓮
白狼の部下に案内され、死体がいくつも眠る部屋へ行く。
廊下にまで漂っていた死臭はこの部屋を開けた瞬間に強くなった。
「気分悪くなったら言ってください。」
身のためとか、今の発言とか、俺はそんなに軟弱に見えてるのかな?
もしもそう見えているのなら、見る目がなさすぎて面白い。
笑うのを我慢して返事をすると、白狼の部下は一番奥の死体収納庫を開けた。
シルバーの取っ手を引けば、昨日小鳥ちゃんを撃とうとした青白い顔の愚か者が姿を表す。
首にはロープで縛ったような内出血があり自殺だと言えばそうにしか思えない。
だけど、こんな状況で自殺だと信じるのは本物の馬鹿しかいない。
誰と繋がっていたにしろ、小鳥ちゃんを殺そうとした事に変わりはない。
この男が死んでしまったなんて受け入れたくないな。
本当は俺の手でこの世の苦痛の全てを味合わせて惨たらしく殺してやろうと思っていたのに。
「何かおかしな点はありますか?」
「全くない。」
相手も馬鹿じゃない、どんな調査が入っても身元が割れないようにはしているはず。
俺がこうしている間にも、証拠という証拠は全て隠滅されるだろう。
「コイツのスマホとパソコンは?」
俺が聞くと白狼の部下はあっさりと答えた。
「見つかってません。」
「そう、じゃあ他殺で決定だね。」
ほぼ全ての情報が入っているであろう電子機器二つが見つからないなんて、そんな偶然あるわけないからね。
「この事は、この部屋を出たら他言無用でお願いします。どんなに怪しくても上が自殺と言っているので。」
こうして釘を刺すって事はここに監視の目は届かないってことかな。
「もちろん、この件は俺が持ち帰るよ。
君も長生きしたいならこの部屋で起こった事は忘れた方がいいよ。」
ここまで徹底して証拠が出ないようにしてるということは関われば殺される確率が高い。
ハンター協会の上役に圧力をかけれる権力者か…。
これはもう、ヴァンパイアの仕業で決定かな。
ヴァンパイアとは言っても権力のあるヴァンパイア。
俺や他の始祖の一族達。
これ、下手したら俺が罪を被る事になるかもしれない。
罪を被るのは正直どうだっていいけど、そうなると小鳥ちゃんと引き離されてしまう。
俺もこの件は派手に刺激しない方がいいかもしれないね。
「言われるまでもありませんよ。上に行ったら、死体は見たけど特に怪しい点はなかった、そう言っておいてください。」
「分かった。最後に一つだけ質問してもいい?」
欲しい情報は手に入ったから、さっきからずっと引っかかっている事を聞きたい。
「はい。」
人狼部隊はハンター協会でもかなりレベルの高い部隊、少数精鋭で数々の凶悪事件を解決していると聞く。
ついさっき人狼部隊に回ってきたであろう何かの通報、そんな大事に人狼部隊最強の男が出向いたにもかかわらず、白狼が直属の部下をわざわざ俺に付けて一人で行くなんて。
こんな死体を見せる簡単な作業なら他の部下でもよかったはず。
白狼が信頼しているであろうこの男を俺に付けたその理由が知りたい。
「さっきの通報の内容は?白狼が出向く程の大事なのに何で直属の部下の君が俺の相手をしてるの?」
聞かれたくない質問だったらしく、目の前の男の鼓動がほんの少し乱れた。
疑いの目をかけていなければ見逃すくらいの心音。
よく訓練されている事が証明されてる。
「………。」
余程答えたくないみたい。
だったら尚のこと知りたくなる。
「答えないならそれでいいけど、この部屋の死体が一つ増えることになるかもね?」
俺がそう言うと観念したらしく、白狼の部下は一度大きなため息をついて通報内容を話し始めた。
「あなたのマンションの近くで女性がヴァンパイアに攫われました、最短の解決を望んだので隊長が出向いたまでです。」
俺のマンションの近くで?
それを聞いて小鳥ちゃんのことがふと思い浮かぶ。
小鳥ちゃんが攫われたとは考え辛い。
俺の部屋は俺の指紋がないと入れないし、もしも小鳥ちゃんが家から出てしまった時のために部下をつけてある。
だから小鳥ちゃんではないはずだけど、この嫌な胸騒ぎはなんだろう。
俺はすぐにスマホを取り出し家の前に置いてきた部下に電話をかけた。
もしも、小鳥ちゃんに何かあったのならこの部下も関わった奴も皆殺しにしてやる。
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