side小鳥

煌牙と一緒に入るはずだった尋問室だけど、煌牙は別の仕事が入ってしまい私は一人で初対面の人に尋問されてる。

それも、訳の分からないことばかり。


相手の男を知らないって言ってるのに、いつ知り合った?とかどうして今回のようなことを頼んだのか、とか、いつから婚約してるのか、とか。


私は本当に心当たりがないのにテーブルの真ん中に鎖が埋め込まれた手錠まで付けられる始末だ。


「だから…本当に何も知らないんです、私は何もしてませんし言ってません。」


同じ質問を何度もされて頭がおかしくなりそうだ。

私が困っていると尋問室の扉がいきなり開いた。


「おい、まだ尋問中……。」


私を尋問していた神経質そうな人は私の後ろの人物を見て固まっていた。

誰が来たのかと振り返っても誰もいない。

かと思ったら、ダン!!と大きな音がする。

元の方向に向き直ると…


「え!!?」


思わず声を上げる出来事が目の前で起きていた。


少し離れた壁に押し付けられている尋問官と、尋問官の首を片手で掴んで壁に押し付けている蓮様だ。


「蓮様!」

「小鳥ちゃんに手錠を付けたのはお前か?」


聞いたことのないような低い声。

静かに怒りを露わにする蓮様は迫力があり怖かった。


「ひっ…ぅっ…」


尋問官の顔が鬱血してきた。


「蓮様!」


私はそれを見て飛び出そうとしたけど、鎖がテーブルの真ん中に繋がっているから立ち上がることさえできない。


「蓮様!落ち着いてください!」


ガチャガチャと手錠に繋がった鎖がうるさい。

こんな鎖がなければ蓮様を止めに入れるのに。


「鍵は誰が持ってる?」

「うっ……わっ…私が……持って、ますっ…」


蓮様が聞くと尋問官は内ポケットに手を入れて鍵を出そうとしている。


私も蓮様もその鍵を心待ちにしていたけど、飛び出してきたのは違うものだった。


それは蓮様の脇の下から私の方へ向けられていた。

バン!!!!と大きな音を立て一瞬で頭が真っ白になる。


「っ。」


グチャッと肉と骨が砕ける音がして私は蓮様に包み込まれた。

あの弾丸を受け止めたのは私じゃない。


ありえないスピードで私を庇ってくれた蓮様だ。


「おい!何やってんだ!!」


怒声とともに煌牙が部屋に入ってきた。

煌牙は尋問官を殴り飛ばしたんだろうか、バキッと凄い音がした。


私は怖くて言葉が出てこない。

蓮様が今どうなっているか全く見当がつかないからだ。

私が恐怖でブルブル震えていると、蓮様が私を抱く力を強くした。


「小鳥ちゃん、大丈夫?怪我はない?」


尋常じゃない程震えている私を心配しているけど撃たれたのは蓮様だ、私じゃない。


蓮様は大丈夫ですか?

その言葉がすんなり出てこなかった。

そんなこと聞きたくもない。


もしも大丈夫じゃなかったら、蓮様が死んでしまったら、私はそんな現実は受け入れられないからだ。


蓮様が死んでしまうことを考えた瞬間、怖くて悲しくて涙が止まらなくなってしまった。


私を庇って死んでしまったら、私が蓮様の死因になってしまったら、私はこれから先どう生きていけばいいの?

蓮様のいない世界をどうやって過ごせばいいの?


「っ…うっ…ひくっ……。」


「大丈夫だよ、銃なんて向けられた事ないもんね?びっくりしたね。」


違う、違うよ、蓮様。

銃なんてどうでもよかった、むしろ私に当たればよかった。

私はあなたを失うのが怖いのよ。


また会えたのに、また引き離されるのが嫌なだけ。もう認めざるを得ない。


私は、蓮様のことが好きなの。


今こうして鎖に繋がれていてよかったのかもしれない。

もしも繋がれていなかったら私は蓮様に抱きついて離れなかっただろう。


「小鳥ちゃん?平気?」


蓮様が私の顔を覗き込んだ。


「蓮様…。」


私の声は本当に情けなくて、そんな私を見て蓮様は優しく微笑む。


「よかった、小鳥ちゃんに当たらなくて。」


私には当たっていない、痛い思いなんかしなかった、全て蓮様のおかげよ。




「ごめんなさい、蓮様。私のために…こんな……」


私が泣きそうになっていると蓮様が私の頬を優しく撫でた。


「謝らなくていいよ。

小鳥ちゃんのためなら何でもしてあげる。」


そんなのダメだよ、蓮様。


「私の胸の傷とこれは割りに合いません。

これで最後にしてください。」


「割に合わない事はないよ。

俺のこれは弾を抜けば何もなかったようになる。でも小鳥ちゃんの傷は一生残るでしょ?

一生、割に合わない思いをするのは小鳥ちゃんなんだよ。」


そんな事、絶対にない。

私は蓮様に再会できた、それだけで幸せ。 

もう報われているんだよ。


「小鳥、大丈夫か?貫通は…してないな。」


煌牙が小さな鍵を持って私の所へ来ると蓮様の背中を見て安心したように思えた。


「うん、蓮様が守ってくれたから大丈夫。」


おかげで蓮様は大怪我をした。


「弾が貫通しなくて良かった、本当に。」


煌牙が私の頭に触れようとした瞬間、蓮様がそれを止めた。


「俺の背中の弾抜いてくれない?

手が届かないんだ。」


そしてとんでもない事を煌牙に頼み出した。


それ絶対、病院でやった方がいいと思うよ蓮様。


「分かりました。

その前に小鳥の手錠を外したいんで離してもらっていいですか?」


煌牙がぶっきらぼうに言うと蓮様はそっと手を離した。


「どうも。」


煌牙は私の手錠を外して私の赤くなった手首を見る。


「本当に悪かった、何があっても小鳥についているべきだった。」


そんなこと言わないでよ、仕事が入ったんだから仕方ないじゃない。


確かに怖い思いはしたけどそれで煌牙を責めるほど自分勝手な女じゃないよ。


「私は大丈夫だから気にしないで、それより蓮様の事なんだけど病院とか行かなくていいの?

救急車とか…」


私がそう言うと二人のイケメンはポカンとした表情をした。


イケメンはどんなに間抜けな顔してもイケメンね。


「小鳥ちゃんって天然なの?

すごく可愛らしいとは思うけど。」


蓮様の言葉で私が真っ赤になったのは言うまでもない。


「救急車や病院は人間の為のものだ、俺やこの人のような丈夫な奴は使わない、勝手に治るからな。」


そうか、そうだった。

ヴァンパイアや人狼は人間の何十倍も優れた治癒力を持ってる。


私が心配するような事なんて一つもない。


「そ、そうだよね、あぁもう、本当にちょっと気が動転しちゃって、あはは…。」


もうこうなったら笑って誤魔化すしかなかった。


「じゃあ後ろ向いてもらっていいですか?

弾出すんで。」


煌牙に言われて蓮様は後ろを向いた。


「小鳥ちゃんは見ない方がいいんじゃない?

穴の空いた体に興味があれば別だけど。」


蓮様はシャツのボタンを外しながら私に言った。

もちろんそんな大怪我を見たい訳じゃない。


「見たくないならこっちにおいで。」


私はその言葉を聞いてすぐさま蓮様の目の前へ移動した。

その時に私に発砲してきた男の足先が私の足首に触れる。


彼は完全に伸びているけど、この人とは二度と会いたくない。


私がじっと男を見ていると蓮様は私の顎にそっと指先を触れさせた。


それがまるで、こっちを見て、の合図のような気がして蓮様に向き直る。

蓮様の真っ赤な瞳と目が合った瞬間、蓮様は私に微笑んでくれた。


「その男は俺が責任を持って処理するから心配しないで。」


優しい声に孕んだ狂気に少しだけ恐怖を覚える。


「あの、蓮様。

この人はきっとハンター協会の人がどうにかするんじゃないですか…?

それに、きっと間違えて私に銃を向けたんですよ。怖くて動揺してしまったのかも…。」


さっきの私みたいにね。


「小鳥ちゃんに一瞬でも銃口を向けたんだから、それなりの事はさせてもらうよ?

経済的にも社会的にも破滅させる。」


蓮様は穏やかな笑みを浮かべているけど、言っていることはかなり過激だ。


「それはこちら側の仕事です。

手出し無用でお願いします。っ!」


「っ!!!!


グチャッ!っと嫌な音がしたかと思えば蓮様の眉間に皺が寄った。


「……乱暴だね。」


蓮様、痛かったのかな?大丈夫かな??


「取れました、服着て大丈夫ですよ。」


蓮様がシャツを着ていた時にふと気付いた事がある。


蓮様は背中で私を庇ってくれたのに、前側のシャツも血まみれだ。


「蓮様、こっち側の血は何ですか?」


私が聞くと蓮様は優しく笑った。


「あぁ、これ?さっき撃たれた時にこっち側にも付いたんじゃないかな?」


こっち側にも血がつくなんて本当に大出血だ。

蓮様、大丈夫なのかな…。


「蓮様、具合が悪くなったりしたら言ってくださいね、いくらヴァンパイアでも大怪我に変わりはないんですから。」


私の胸の怪我よりもずっと重くて酷い怪我だ。

比べ物にすらならない。


「ありがとう、小鳥ちゃん。それより早く帰らない?もう俺たちがここにいる理由はなさそうだし。」


蓮様はチラッと煌牙を見た。


「そのハンターは俺が尋問した後処分を下します。小鳥の無罪も証明されたので帰ってもらって大丈夫です。」


煌牙はその視線に気付いて淡々と説明をした。


「小鳥ちゃん、車回してくるから待ってて。」


蓮様の言葉を全て聞いた瞬間、蓮様はこの部屋からいなくなってしまう。

本当に蓮様の動きにはついていけない。

私と煌牙は静かすぎる部屋で互いに目が合った。


「小鳥、これから先しばらく絶対に一人になるな。誰かは分からないが、小鳥を陥れようとしてる奴がいる。小鳥を婚約者だとホラを吹いた今回の男は闇サイトに応募してこんな事をしたらしいからな。」


煌牙に言われてサーッと血の気が引いていくのが分かった。


「闇サイトって…本当に?

じゃあ、私の情報がそっち系の所で晒されてるってこと?」


どうしてそんなことに?

そもそもいつから??

私が戸惑っていると煌牙は頷いた。


「その事についても調べておく。

何か分かるまで絶対に一人で行動するなよ?

コンビニも、通勤も、何もかも。

もしも一人になってしまいそうな時は言ってくれ。どうにか都合をつけて飛んで行くから。」


私は一気に不安になった。


自分がおかしなサイトに晒されている事もそうだけど、これからしばらく蓮様や煌牙に迷惑をかけて日常を過ごさないといけないからだ。

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鳥籠の中の寵愛 花ノ音 @hanano_oto

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