死に終われる

星 巡

1人目

何で泣いてたのか覚えてません。

でも私が泣く度に母親が怒鳴りながら家を出ようとしたのはよく覚えてます。

それが嫌で、悲しくて、また泣きました。母親は更に怒りました。

母親が何に怒っていたのかなんて、子どもの私に分かる訳ないじゃないですか。だから私はひたすら母親を怒らせないように顔色を窺う事ばかりしていたと思います。怒らせる事をした私が悪いんだ。私が居るから母親は怒るんだ。そう思い始めた頃に、私の通っていた学校でとある噂が流れました。

先生が自殺したらしいです。近所の踏切で横たわっていた所を電車に撥ねられたってクラスメイトから聞きました。本当かどうかは知りませんよ?でもその先生が亡くなった事は、その日の全校集会で聞かされたと思います。酔っ払ってたんですかね。それともやっぱり自殺なんでしょうか。真実は分かりませんが、私はそれを聞いて子どもながらに腑に落ちたのを覚えています。自殺って手段があるんだって。私も死ねば辛い思いしなくて済むんだって知りました。

それから私は学校が終わると、真っ先に家に帰り、パソコンで自殺について調べました。毎日毎日、色んな自殺方法を調べました。

初めて私は、タオルで輪っかを作って首を通しました。当然上手く吊れる訳もなく、ただただ苦しいだけでした。でも、母親が帰る前に、見つかる前に死ななきゃって、脅迫じみた感覚がありました。ぼろぼろ涙が出て、何もかも怖かったんです。

あれから十年以上経った今も私は生きています。求人サイトで見付けた職場で、フリーターとして働きながら、少ない給料で何とか生計を立てています。少ないけれど、長い付き合いの友人も居ます。恋人も何人か居ました。客観的に見れば、大きな幸せはなくても不自由ない生活は出来ていますし、全く幸せのない毎日という訳ではありませんから、特に不満もありません。

それでも私はふとした時に思うんです。初めて首を吊ったあの時に死んでいれば良かったって。あの日からずっと、死にたいという願望が消えないのです。ずっと。

ほんの少し、仕事で小さなミスをした。ほんの少し、道端で躓いて恥ずかしい思いをした。そんなくだらない、不幸にも換算されないような出来事がある度に、今すぐ死ななきゃ。死にたい。そんな思いが一気に襲ってくるんです。疲れますよね、そんな毎日って。だから余計に死にたくなるんです。だけどぼんやりと、私はこのまま死にたいと思いながら生き続けるんですよ。だって手首すら切れないんです。怖いんです。それなのに死にたいなんて傲慢にも願うんですよ。いつか何処かで本当に辛い思いをした時に死んでくれないかなって。未来の自分に託しながら生きてるんです。

情けないですね。こんな人生に何の意味があるんでしょうか。こんな事を言ったって、どうせ死ねないんですけどね。それだけの話なんです。

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