赤い影に眠ってくれ

阿部狐

プロローグ

 篠突く雨。保健室の窓越しから、朧げな月光が差し込む。

 雨音で騒がしい外とは対照的に、保健室はしんと静まり返っている。廃墟のように閑散とした中学校は、まるで僕だけが住む世界のようだ。

 ただ、そうでないことは分かっている。ベッドの上に、縄で吊られた、大坂康太の遺体。真っ青な彼の顔を見る度に、僕は犯した罪を自覚する。

 仕方なかった。これは報復だ。

 そう自分に言い聞かせても、手足が震える。夏だというのに、冷や汗が止まらない。自分自身を制御できない感覚が、無性に恐ろしかった。

 月明かりが足元を照らす。保健室には、影一つ。

 一人ぼっちの戦いが始まる。大きく息を吐いて、腹をくくった。

 大丈夫。僕はお兄ちゃんだ。

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