愛する婚約者を守るために頑張る公爵令嬢は、未来に絶望しない

海咲雪

プロローグ

豪華な部屋に存在するのは、たった二人。


私、リーシア・ヴィルトールと、愛する私の婚約者であるルイズ・アーティクトだけ。


そして、私はただただ静かに涙を溢している。





ルイズ様に馬乗りになり、震えた手でルイズ様の首筋のすぐそばにナイフを突きつけながら。






まるで、今からでもルイズ様の首にナイフを刺す数秒前のような光景。


そんな私をルイズ様はまだ慈しむような顔で見ている。


地獄のような光景。






「っ!」






そこで目が覚めた。


服には、冷や汗がにじんでいる。


「なんだ、夢か……」と普通の人間なら思えるだろう。


しかし、実際は夢の中の私より、私は震えていた。



「はぁ……!はぁ……!」



呼吸が荒くなっていく。


なんとか深呼吸をしようとしても、気持ちを落ち着けようとしても、出来るはずなかった。


ヴァルトール公爵家……つまり、私の家系は【予知夢】を見る。


そして、予知夢で災害やこれから起こる悲劇を事前に王家に伝え、そして【そなえる】ことで地位を確立してきた。


私も見た予知夢は必ずお父様に報告して、王家に伝えてきた。





そう、【備える】のだ。【防ぐ】のではなく。





つまり、ヴァルトール公爵家の予知夢は、【必ず起こる】。


さらに呼吸が速くなっていくのをなんとか整えようとしながら、私は思考を巡らせた。




今すぐにでも、婚約を破棄しよう。




落ち着くのよ、私。


私はルイズ様の首にナイフを刺す【数秒前】のような様子だった。


【刺す】瞬間の予知夢を見たわけではない。


まだ防げる。


いや、防ぐしかないの。







そう決意した翌日の夢は、私を絶望させるには十分すぎるほどだった。







倒れるルイズ様の隣で、死んだような顔の私。




ルイズ様の息は【もう無かった】。




目が覚めて、数秒……





「いやぁああああああああ!!」





私の泣き叫ぶような悲鳴が、部屋に響き渡った。


愛する婚約者を自らの手で刺してしまうという事実は、私が絶望するには十分で。




これは、私が予知夢の真実を知るお話。



愛する婚約者を守るお話。



そして、予知夢を【防ぐ】または【防げない】お話。




一体、これからどうなるのでしょうか?

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