18 後始末
私にとって、ミイはかつての自分だ。
才能もなく、強さに憧れ、彼女に憧れ。
それを求めることに全てを費やした自分と。
今のミイは、どこか重なって見える。
私にもこんな時期があったと、そう思うと同時。
ミイにとって、私はどう見えているのだろうと思う時もあるのだ。
「――さて」
動かなくなったのを確認してから、ミイを下ろす。
「さっきのダスタウラス、魔神のマナを取り込んでいた。そこから考えうる可能性、ミイはわかる?」
「えっと……魔神が復活しかけている?」
「正解。このあたりで、魔神は討伐されたから。……でも」
そう言って、私は地面に手を当てた。
流れるマナを探るためだ。
「今、魔神のマナは感じられない。倒したことで減衰したと考えるべきね?」
「それはそうですね……」
「でも、おかしなことが一つ。魔神が復活するなんて話、聞いたことがないの」
そうなんですか? と首をかしげる。
一般人は、そもそも魔神の区別すらつかないだろうから、仕方がない。
「今のところはね。でも、何事も例外はあるのかも知れない」
「じゃ、じゃあ……どうすればいいんですか?」
「――どうもしない」
「えっ」
私は、肩をすくめてお手上げのポーズを取って、立ち上がる。
驚いた様子のミイに、正直なところを話す。
「情報が少なすぎるし、何より齢七つの小娘に何ができるの? 私にできることは、あなた達を守ることと――」
「守ることと?」
「最強を目指し、強くなることだけ」
そして、彼女と向かい合った。
「私はね、ミイ。強くなりたいの。誰よりも強く、誰にも負けないくらい強くなりたい。どうしてかわかる?」
「えっと……」
ミイは、私の問いを受けて、こちらを覗き込んでくる。
彼女には、私はどんな姿で映っているのだろう。
「ミイが、自分のすべてを賭してでも私達クルセディスタを守ろうとするのと、同じ」
「ええっと……」
ミイには、私達しかいない。
クルセディスタだけが、ミイの居場所だ。
居場所を守るために、すべてを賭して戦っている。
「強くなることだけが、私の生きる意味だから」
その言葉に、一切の嘘はない。
ミイは私の言葉に目を見開いて……それから、少しずつそれを咀嚼した。
やがて、返した言葉は――
「お嬢様は……お優しいのですね」
私の思っても見なかった言葉だ。
「優しい? 私が?」
「それだけ純粋に力を求めているのに、私を助けてくださるのは優しいのだと思います」
……ふむ。
思っても見ないことだ。
「確かにお嬢様は、自分の感情優先で、時にはとんでもない無茶を言い出す時もあります」
例の貴族の一件とか。
なんて、そう言われると確かに否定はできない。
「そのうえで、お嬢様は私達が無能だと罵倒された時、真っ先に否定してくださいました。アレは――きっと優しさなのだと思います」
「……そう」
優しい、などと。
自分ではそう思ったことなど一度もなかったが。
以前にも、そう言われたことを思い出す。
『貴方が私と一緒にいるのは、優しいからね。私みたいなのと少しでも一緒にいたいと思うのは、貴方が優しいからなのよ』
あの時は、それは違うと私は答えた。
私が彼女と共にいたのは、彼女に憧れていたからだ、と。
しかし、二度もそんな事を言われると。
私は優しかったのではないか、という気がしてくる。
「まったく……ミイは私のことを、よく見ているな」
「う……それは、お嬢様だって同じですよ」
かもしれない、と私は笑った。
「それで……えっと、お嬢様。さっき言いかけてたことは何だったんですか?」
「ああ、アレ? 別に今話す必要もないのだけど……」
突拍子のないことを言っても信じるか、と。
ミイに聞いて、実際に信じると答えたけれど。
やはり、前世の記憶があるというのは、突拍子がなさすぎるだろう。
と、思うが。
「……随分と、聞きたそうな雰囲気ね」
「ええ、もう。お嬢様の秘密ですから。私はなんだって知りたいです」
「じゃあ、聞いても笑わないでちょうだい」
そう言ってから、でもやはり少しためらって。
ミイの、キラキラと輝いた瞳に気圧された結果、観念したように話す。
「……私には、前世の記憶があると言ったら、貴方は信じる?」
その言葉に、ミイは――――
「あ、あーーーーー」
なんというか、とても腑に落ちた様子で吐息をこぼした。
驚くでもなく、正気を疑うでもなく。
今まで感じていた疑問に、わかりやすい答えが出たという雰囲気。
「……そんなに、納得の行く答えだった?」
「それはもう! お嬢様絶対年齢詐称してるだろって思ってましたけど、本当にしてたんですね!」
「言い方。いえ、いいのだけど。そのとおりだし」
全く持ってその通りではあるのだけど。
年齢を偽っていると思われていたのは、なんだか心外だ。
「それと、どうして私に対して変態的な視線を向けるのかについても、教えてもらえる?」
「……そ、それは」
「それは?」
「勘弁してください……」
「まぁ、いいのだけどね」
そういう趣味なら、それでもいいだろう。
あくまで視線を向けたり、衣服の匂いを嗅いだりする程度だ。
これで、実際に手を出してきたら叩き出すけど。
「さて、……帰りましょう。ミイ」
言って、手を差し伸べる。
「――改めて、よろしく。ミイ」
「……!」
かくして、私達はお互いの秘密を知って。
「……はい!」
夜は、終わりを告げる
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