浮気する女

あんぜ

第1話

 あたしは小さな頃から女と男、その違いをちゃんと意識してきた。誰もが言うように、幼いからって区別がつかない訳じゃない。二つか三つの頃には既に、近所でよく遊んでくれるお兄さんが好きになっていた。


 もちろん、年が八つも離れているとすぐに疎遠になった。そうなると次は同い年の男の子を好きになった。四月生まれのその子は少し背が高くて頭が良くて、クールでカッコ良かった。


 ただ、同い年の男の子は上の子たちに揶揄われてからは、あたしと一緒に居たり、手を繋ぐことを避けるようになった。まあしょうがないよね。幼稚園児だもん。でも、小学生になって初めてのバレンタイン。あたしがチョコを送ったのに返事なしは酷いよね。


 小学生になると男の子も背が伸びてくる。あたしは背の高い男の子が好き。背の高い順に上から値踏みしていく。あの子も、あの子もいい。あの子も意外とカッコイイ。そうして学年の半分くらいまで値踏みすると、順番を付けた。1番のあの子はあたしの恋人、2番のあの子は2番目の恋人、3番のあの子は……と、今でいう逆ハーレムみたいに、頭の中で恋人にしていった。みんなあたしに夢中!


 成長していくにつれ、逆ハーレムのメンバーは変わっていった。思ったよりカッコよくなかったとか、先輩にもっといい人が居たとか、背が伸びなかったとか。まあ、小学生の考えるようなことじゃないよね。でも、あたしにはそれが楽しみ。


 中学に入ると、またメンバーはがらりと変わった。面食い?――っていうのかな。あたしはどうやらその素質があるらしい。あの彼もいい、この彼もいい、あっちの彼も意外と悪くない。部活強制でソフトテニスに入ったが、一年やっただけで二年以降はサボってばかり。ただ、後輩に芸能人かと思う程カッコイイ男の子が入った。


 声を掛ければよかったんだけど、なんとあたし、これだけ男が好きなのに一度も告白をしたことが無かった。なぜかと言うと、まず第一に背が高い。クラスではいちばん高い。男子も含めて。第二に父親似のせいで目鼻立ちがくっきりし過ぎで日本人離れしている。付いた渾名が『アメリカ人』。いや、今思うとアメリカ人て……。第三に、こんな思考をしているくせに……内気だったのだ。


 結局、そんな感じで逆ハーレム序列1番の彼にも、後輩の彼にも告白できず、中学は終了。高校へと。


 さて、高校へ入るとメンバーも少し変わってくる。何故ならあたし、勉強は割とできるからだ。頭のいい連中が集まると、意外とこれが性格もいい連中が揃ってくる。あたしの逆ハーレムのメンバーには、顔がいい男の他に、性格のいい男が並び始めた。性格がいいなら顔も背の高さも気にならない。というより、クラス全員の男子、それぞれに良さがあることに気が付き始めたのだ。


 そういうわけで高校を卒業するころになると、明確にあたしを嫌っている男以外は、それぞれにいいものだなどと勝手に思うようになってきた。ただ残念なことに、あたしはそれぞれの良さが見えてきた反面、誰か一人を選ぶことができなくなってしまっていたのだ。結局、高校でも告白はしなかった。


 あ、ただ、告白されたことはあった。しかしその相手、あたしを嫌っていた様子だったので眼中になく、告白されても――あっ、そうなんだ――としか思えなかったのでフッた。


 大学生にもなると、サークルなんかのノリもあってか周りが次から次へと恋人を作り始めた。ただ、残念ながらあたしはそうはならなかった。なぜってオタの友達に誘われてアニメ・ゲーム研究会へ入ったからだ。いやなぜそこまで男好きでそこへ入る!?――って言われても仕方がない。それだけ内気な性格は強く、合う友達が限られていたのだ。


 よし、じゃああれだ。オタサーの姫とかになったんだな?――って言われても違う。オタサーの姫になったのはあたしの友達の方。あたしはというと、なぜか怖がられて手を出されないどころか、指一本触れられなかった。姫はと言うと、二股、三股しながらサークルの男子全員と関係を持っていた。つまりあたしの妄想のように逆ハーレム。羨ましいかって?――いやあそれが全然羨ましくない。偏見じゃないけれど、どうもオタサーの男共はマウント気味のところがあって合わなかった。


 まあそんで結局、大学でも誰とも付き合わないまま、就職して社会人になった。

 社会人になると出会いは限定される。特にあたしが就職した地元企業の経理事務なんかだと、まあ、高校時代のような多彩な出会いは夢のまた夢だった。



 さて、このまま出会いが無く、人生が終わったか――と言うとそうでもない。

 大学の頃、確か20才の頃に始めたネトゲの知り合いと、社会人になって初めて会うことになったのだ。別に大した理由じゃない。初期から一緒に遊んでいて、慣れ親しんだ相手が偶然、地元の会社に就職したのだ。


 よし、じゃあ会ってみようか――なんて話になり、まあせっかくだしと同人誌即売会で待ち合わせすることになった。いや、なんでそこで同人誌即売会なんだよ!



 あたしは手持ちの服で、なんとか外に着て行けそうなものを探す。ただ……黒、白、黒、黒、モノトーン……いや、慌てるな。どこかのファッションデザイナーも言ってたよね。ファッション色々考えてると、最後は面倒になって黒の同じのばかりになるって……。


 あたしは普段から姫カットにしてる。かわいいから。ただちょっと、髪質がしっかりしすぎててバリバリストレートのロングは背中まである。オフホワイトのインナーにシルエットが細身の黒ジャケット、ボトムスは黒パンタロン、足元は厚底ブーツ。とにかく、今できるギリのオシャレをして出かけたのだ。



 ◇◇◇◇◇



「モータ〇ヘッドかよ……」


 いや、いやいやいや、初めて会ってソレ!? もっと言いようがない? せめてほら、中に乗ってる人工生命体の方で! しかも彼、最初は似たような色合いの――色合いって言っても黒白黒だけど――の、もっと背の低い女の子に声を掛けていた。いや、その子、あたしが事前説明したのとまるで別人だし!


 まあ確かに、彼からするとあたしは大きかったが……。


 とにかくこれが、あたしの夫となる長谷 洋一はせ よういちくんとの出会いだった。







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 続きませんぬ。


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