自衛隊は三正面作戦に対応できるか?

曇空 鈍縒

二正面作戦と韓国、北朝鮮軍

 二正面作戦。


 それはドイツ軍やナポレオン、日本軍など、数多くの軍隊を敗戦へと追い込んできた悪魔の作戦です。


 これは二つの戦線、つまり離れた二つの場所でそれぞれ異なる敵と戦うことを意味し、軍事上、特に避けるべきことの一つである『戦力の分散』を強いられます。


 に考えると、戦線が二つになれば、一つの戦線を支えるのに必要な兵力と軍需物資がそのまま二倍必要となります。


 戦史上、大規模な二正面作戦をまともに戦えた国家は、せいぜい第二次世界大戦におけるアメリカぐらいでしょう。


 第二次世界大戦開戦時のアメリカは、決して軍事力に秀でていたわけではありませんが、圧倒的な工業力を背景に大軍を作り上げ、ドイツと大日本帝国という二つの超大国を相手に勝利を収めました。


 ですが、それも圧倒的な物量(毎週空母を就役させるぐらい週刊空母)と高い兵站能力があって初めて実現した勝利です ※1


 それに、アメリカは運にも恵まれました。


 海を挟んだ二つの超大国と戦うのは、それぐらい難しいことなのです。


 当然ですが、自衛隊が保有している戦力で二正面作戦なんてやったら、すぐジリ貧になってしまいます。


 ですが、二正面作戦というのは基本的に狙ってやるものではなく、やらざるを得なくなってやることがほとんどです。


 そして日本は現在、大規模な二正面作戦が発生するリスクを抱えています。


 日本の周囲には中国、ロシアという二つの超大国が存在しており、両国とも日本の存在をあまり快く思っていません。


 その上、中露は蜜月の関係にあり、もしどちらかが日本に侵攻を行った場合、もう片方がその援助を行う可能性は低くないでしょう。


 さらに北朝鮮という核武装した狂犬国家も存在しており、日本海沿岸の情勢は、まだ日本が平和なのが奇跡と言えるほど緊迫しています。


 中でも、現時点で最も発生しうる脅威が、北朝鮮軍によるテロと韓国への大規模侵攻です。


 北朝鮮の軍隊である朝鮮人民軍は額面だけなら韓国軍の二倍という莫大な戦力を保有しており、北朝鮮政府は人民軍があればたったの三日で韓国を陥落させることができると豪語しています。


 ですが実際の戦力は、そこまで大きくないでしょう。


 ご存知の通り北朝鮮の食糧難はかなりのもので、軍隊に農作業や鉱石採掘をさせているような有様という情報もあります。


 兵士の質というのは訓練を行わなければ下がっていきますから、北朝鮮軍の一般兵卒の練度は陰惨な状態にある可能性が高いです。


 それに、高級将校への粛清人事も少なからず行われており、優秀な将校がほとんど残っていない可能性もあります。


 さらに技術と燃料の不足から最新鋭の対空ミサイルや戦闘機などはほとんど存在しておらず、わずかな旧式兵器についても燃料不足から稼働率は高くありません。


 一方の韓国は最新鋭の戦車や戦闘機を運用し、常備軍こそ北朝鮮ほど大きくないものの、徴兵制で緊急時に動員できる戦略予備を確保しています。


 韓国の常備軍についても、海軍こそあまり強くないものの、陸軍については質規模ともにかなりのレベルに達しており、兵器開発にも情熱を注いでいます。


 海外への販路も開拓しているので、最近の韓国製兵器はかなりの高水準にあると見ていいでしょう。


 あまり強くない韓国海軍についても戦争できるレベルは保っていますし、そもそも主敵となる北朝鮮海軍は無いも同然なので問題ありません。


 もちろん、韓国社会には少なからず北朝鮮の工作員が潜伏していると思われますが、韓国は高すぎる授業料を払って工作員への対応を学んでいます。


 北朝鮮の工作員が青瓦台政府機能と韓国軍を破壊するのは難しいでしょう。


 しかも、有事となればそれらの精強な韓国軍に在韓米軍も加わるので、朝鮮戦争において自衛隊の出る幕はほとんどないと思われます。


 あるとしても、日本国内で北朝鮮工作員がテロを行った場合に、(特殊作戦群や中央即応連隊などの)一部の精鋭部隊が対応するぐらいでしょう。


 この意味は、決して小さくありません。


 韓国が陥落すれば、日本は北朝鮮と直接対峙しなければならなくなります。


 平和国家日本は間違いなく崩壊するでしょう。

 

 つまり、日韓関係に関わらず韓国の陥落は日本にとって絶対に避けなければならない事態なのです。


 朝鮮半島への自衛隊派遣が必要になれば、後述する『三正面作戦』が発生した際に自衛隊の負担がかなり高くなります。


 北朝鮮において日本がするべきなのは、韓国と協力して衝突に備えつつ(主に邦人救助や兵站での協力)、外交面で可能な限り衝突回避に奔走するというのが最良だと、私は考えています。


 少し長くなってしまったので、本作の主旨である中国とロシアそして『三正面作戦』については、次のエピソードで書こうと思います。


 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


 ◇◇◇

 ※1

 当時、ドイツはソ連とアメリカの二正面、日本に至ってはアメリカ、ソ連、中国、東南アジアの四正面で戦っていたので、状況が違っていればアメリカが負けていた可能性もあります。

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