第41話 遠足に行こう(2)

 ハウさんの家を出て、通学路には戻らず森の中へ入る。


 「あんまり、森の中は、危ないんじゃ……」


 各村とも集落が形成されている場所と村々を繋ぐ道は森が切り開かれているが、そこを少し外れるともう樹海だ。山歩きの装備もなしに歩くのは遭難の恐れがある。


 「大丈夫よ。すぐそこだから」


 民家の裏手から森に入り歩くこと5分。森の中の開けた場所に来た。


 「お花畑があるって言ってたのに何もないね」


 イサナさんが残念そうに積もった雪を蹴った。


 「今の時期に咲いてるわけないじゃないっ。ここは春になったらシャラの花がいっぱい咲いて絨毯みたいになるの。とってもすごいんだから!」


 ウェルナさんは両腕を広げて満面の笑みで言う。


 (ウェルナさんはリーダー気質はこういう隠れた場所を探したりするところでも発揮されるみたいね)


 シャラの花という名前は初めて聞いた。

 一体どんな花が咲くのだろう。それが一面に咲き誇る景色は一体どんなものだろう。

 春になったら絶対に見に来よう。





 次の案内役はリーヴくん。

 彼は狼族の村から近い森の中を案内してくれた。

 村からここまではよく人通りがあるらしく、踏みしめられて道になっていた。


 「僕の好きな場所はここ。ここら辺の木は全部リーヴなんだよ。僕の名前と一緒の木。秋にはたくさん実がなるから取りに来たりもする」


 リーヴくんの名前の由来はこの木からきていたのか。

 こんなに雪が積もっていても青々とした葉を茂らせている。


 「リーヴの木って、どんな木?」

 「私知ってる。リーヴの木は千年も生きるの。どんな痩せた土でも育つし、丈夫」


 興味があることにはとことん詳しいカーグさんが教えてくれた。


 「花はとってもいい匂いがするよね」


 と言って葉の匂いを嗅いで何の匂いもしなかったらしく、イサナさんは首を傾げている。

 リーヴくんの両親は、この木のように彼が丈夫で長生きしてどんな場所でも活躍できる人になれるようにと願って彼の名前をつけたのだろう。

 私も秋になったらリーヴの実を取りに来よう。


 「私の名前の由来ってなんだろう?」

 「ボクも知らないや」


 カーグさんとオドくんが顔を見合わせて首を傾げている。


 (かわいい……)


 「次は私。ここからまぁ近いからついてきて」


 今度はカーグさんの番らしい。

 私達は彼女を先頭に再び歩き始めた。





 カーグさんは来た道をさらに奥へと進んでいった。

 途中で道は獣道になり険しい坂もズンズンと登る。

 私は急坂を15分登り続けたところで次第に息が切れ始めた。

 雪で足を取られるから余計に体力を消耗する。

 体は若いし、日頃水汲みや掃除でそんなに運動不足でもない。

 それでも体力は獣人の子供達の足元にも及ばない。


 「先生、大丈夫ー?」


 エイドくんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。


 「だっ、大丈夫……」

 「もうすぐ着くから頑張って」


 先頭のカーグさんが前だけを見て言う。

 彼女のもうすぐはそれから5分後のことだった。





 「ここ、いい場所でしょ?」


 険しい山登りをして辿り着いたのは狼族の奥にある山の頂上だった。

 この山には狩りや山菜取りに度々来ていたが、山頂までは来たことがなかった。

 ここからは狼族の村が一望できる。

 人が住み着いて森が切り拓かれ、住人が増えるごとにその面積を広げていったように推察できた。

 見晴らしの良さに感心するが、さすがに他の村までは見えなかった。

 ビュウビュウと冷たい風が私の髪を巻き上げる。ここまで来る間に少しかいた汗が余計に寒い。


 「ここには月が出ない夜パパと来る。それで一緒に星を見る。いっぱい見えるよ。春は◉◆⌘%?%∂__」

 「ちょっと、待って! 辞書を出すから……」


 私はいつも持ち歩いている辞書を肩かけカバンから取り出してカーグさんが言った単語を探した。


 「じゃあもう1回言うよ。春は魔法使いの杖座、大鷲座、方舟座、鼓舞する獅子座とか、夏は炎の竜座、森の妖精座、天馬座、天空の猟豹座でしょ、秋は真実の秤座、勇敢な狐座、君臨する熊座、冬は王冠座、闘う虎座、光の蝶座、砂時計座、夜の花座とかいっぱいいっぱい見れるよ。まだ覚えてないけどもっとある」


 私は辞書を引き、たくさんの星座の名前を知った。

 カーグさんは空を指差し一つ一つ形を作りながら天体を熱く語ってくれた。


 (本当に記憶力がすごい。特に興味のある分野はとことん調べ尽くすタイプよね)


 「すごい! 詳しいわね! どれが一番綺麗なの?」

 「一番はきめられない。けど明るい星が多いのは炎の竜座」

 「見てみたいわ」

 「見られる時期になったら教える」

 「ありがとう!」


 カーグさんとウェルナさんがまだ明るい空を見上げながら楽しそうに笑っていた。


 「星座は分かったから次行こーぜー。今度はオレらの番な」


 次の案内人はスキラさんとスナフくん。

 さすが双子、一番好きな場所も同じだった。

 2人の好きな場所は獅子族の村にあるらしい。

 私達は山を来た方とは逆側に下り、獅子族の村に向かった。

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