第14話 救急外来初日
今週からは救急外来での勤務だ。
救急は朝、昼、夜の3交代制で、私たち実習生はそれぞれ3つの班に分けて配属された。
「救急での魔法治療師の仕事は
私にはここでもハーヴィー先生が指導医としてついてくれることになり、先生は救急外来の中を歩きながら説明してくれた。
救急外来は車で乗りつけやすいように、駐車場のある裏口から入ってすぐ、病院のエントランスにも近い場顔にある。広くはなく、待合室に数脚の長椅子とその奥に治療室があった。
現代日本のように電話で救急車を呼ぶことはできない。患者さんはたいてい車に乗って自力で来院するか、もしくは近所の診療所に駆け込んで、そこで応急処置だけ受けてそこの車に乗って来ることになる。
「魔法診療科みたいにひっきりなしに患者がくることはないから、救急担当の日はのんびりできて悪くないよ。けど来る患者には素早い診察と治療が必要だから勉強にはもってこいさ」
私の救急のイメージはテレビで見ていたドラマや、なんちゃら24時の影響があるから、なんだかちょっと拍子抜けだった。さらに救急診療科は病院の治療魔法師が交代で勤めていて救急専門医がいるわけではなかった。
ジリリリリッ!
ハーヴィー先生の説明の途中でけたたましいベルの音が鳴り響いた。
「救急外来の入り口にあるベルが鳴らされた。自力で歩けない患者がいるときに押すように書いてあるんだ。急患だ、行こう」
私は先生に指示されるままストレッチャーを押し急いで入り口に向かう。
「あああああぁああぁ痛てえぇぇえ!!」
私たちが走って向かうと、手を押さえて叫びながらヨタヨタとこちらに歩いてくる男性と彼に付き添う男性が見えた。
「せっ先生、指がっ指が!」
「落ち着いて。ストレッチャーに乗ってください。乗れますか?」
「あぁ、っあぁ!」
ハーヴィー先生は慌てることなく冷静に対応している。私は押さえた手からしたたり落ちる血に動揺してしまう。
私と先生はストレッチャーに男性を乗せて処置室へ急ぐ。
「すぐ処置しますからね。それで、お名前、教えてもらえますか?」
「クリス! クリス・クラークッ!」
「クラークさん、処置室に着きましたから、今から治癒魔法を使いますね。指が第一関節から切断されていますが、切れてしまった指は持ってきてますか?」
「あります!」
付き添いの男性が布に包まれた指を出した。
「よかった。指があるので元通りになりますよ」
先生は手と指の切断面を綺麗にして、指を持ってつなげ、
「行使:
治癒能力を異次元に高めることで指の接着を成功させた。
「ぐあぁ!」
指の切断ともなれば治療は10分前後に及ぶ。残念ながら患者はその間痛みに耐えなければならない。時と場合によっては麻酔も使われるが、今回の場合は麻酔が効くのを待つより治療をした方が早い。
「あああっ! いてええぇえぇ!! たすけっ! たすけっ…………いっ痛くねぇ。治った!?」
クラークさんは10分の間叫び倒し治療を耐え切った。
「えぇ、ちゃんとくっつきました。この怪我はどこで?」
「店で料理中にやっちまった。ったく何年やってんだか、情けねぇ……」
「じゃあ他の怪我はなさそうだ。以後は気をつけてくださいね。くっつけたばかりの指が馴染むのに時間がかかりますから、数日はあまり動かさないように」
先生はさすがの手際で治療し、患者さんを見送った。
「魔法診療科と違ってここの外来にはさっきの患者さんみたいに緊急の人が来るから緊張感はあるね」
「はい。さっきは少し怯んでしまいました」
「まぁやっていれば慣れるさ」
もっと早く知識と経験を積んで、ハーヴィー先生やハリス先生のようになりたいと思った。
この実習が終わり、無事合格できたら私は独り立ちだ。今までのように診察時にハリス先生が見ていてくれることもなくなる。
私の中で、早く独り立ちして先生の負担を減らしたい気持ちと、まだ見習いでいたい気持ちがせめぎ合っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます