第11話 実習
治療魔法師の国家試験は筆記と実習の両方をパスしなければならない。
私は先日筆記試験の合格通知をもらい、今日からはここハールズデンの市立病院での3カ月間の実習が始まる。そこで指導医から合格を貰えば晴れて魔法治療師となれるが、落ちた場合は学校もしくは見習い先の病院で1年間学び直しとなる。
私はハリス先生から必ず受かってくるようにと厳命されているので受かるしかない。
(よしっ、頑張ろう!)
バスに乗って初めてきたその病院はやはり大学病院だけあって大きかった。外観は日本で例えると明治時代あたりに建てられたようなモダンな感じだ。さらに具体的に例えるならテレビで見た神戸大学のキャンパスに似ている。
私は緊張が少し緩んで、院内をキョロキョロしながらたどり着いた魔法診療科の医局の扉を叩いた。
「おはようございます。実習で来ましたナオ・キクチです。よろしくお願いします」
この見た目でジルタニア風ではない名前はややこしいので普段はナオで通しているが、ここではきちんとナオ・キクチと名乗る。どうせ名前はもう把握されているのだから隠しようもない。
医局は普通の会社のように机が並んでいて(ただし机はもちろん木製)医師が5人座っていた。その中の一人が立ち上がり私を迎えてくれた。
「やぁ、実習生くんだね。今年はウチの医局に3人入ってくるからちょっと待ってね__っと来たようだね」
振り返ると同年代の男女2人が入ってくるところだった。
「君たちも実習生だね。それでは改めまして。君たちの指導医になるジル・ハーヴィーだ。よろしくね」
黒髪が艶やかなアラフォーくらいの美人だ。
「君たち3人はこれから3カ月の実習を共にする仲間だ。軽く自己紹介でもして打ち解けるといい」
促され誰から話し始めるかの攻防が目線で交わされたので、ここは1番の年長者(精神的に)が行くべきだろうと私が手を挙げた。
「ナオ・キクチです。学校には行っていなくてこの街の診療所で見習いをしながら受験しました。事故か何かにあったみたいで去年の春より前の記憶がありません。よろしくお願いします」
出自や年齢さえ聞かれても答えられないので、あらかじめ伝えておくことにした。しかしそのせいでその場の空気はアイスブレイクどころか南極レベルに凍ってしまった。
「いや、よろしくって。大丈夫なのかよ?」
「大丈夫。日常生活は大抵問題ないわ」
「おっおう。まぁ、なんだ。お大事に? ……そうだ自己紹介。俺はジェイミー・マティック。スミートンズ医大の魔法診療学科から来ました」
スミートンズというのはここロドス州の最南にある街だったはず。ジルタニア全土は覚えていないが、ロドス州とその周辺の地理にはだいぶ詳しくなった。
栗色の髪をバシッとキメた少し派手な印象を受ける青年だ。
やっぱりみんな医大出身なのかなぁ、なんて私は思いながら最後の1人を見た。
「私はミシェル・トンプソンです。地元もここでハールズデン医大から来ました」
プラチナブロンドの儚かわいい系の女子もやっぱり医大から来ていた。診療所の見習いの自分は果たして実習をクリアできるのか__
「まず今週は私と一緒に外来に入って見学。来週からは救急外来で実際に治療にあたってもらいます」
(救急!?)
驚いたのは私だけだったようだ。他の2人を見ると表情を変えず頷いているだけだった。
どうやら知らなかったのは私だけらしい。
(そりゃそうよね。学校で実習の内容も聞いてるはず。なんでハリス先生は教えてくれなかったんだろ)
昨日私は先生に『実習では何をするのか』と聞いたのだけど、『まぁここでの診療とそう変わりませんよ』と言うだけで詳細を教えてくれなかった。
先生も治療魔法師になる時は実習をしたはず……。もしかして今はどうやっているのか知らなかったから教えられなかったとか?
まぁ考えてもいまさらだ。
こうして3カ月の実習生活が始まった。
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