第6話 蒼凰の赫血使い
黒黒とした鱗に、ロープのように細く長い体躯。
その口からは、先端が二又に分かれた舌が細かく振動するように出ていて、縦長の瞳でこちらを見定めるように、ジッと見ていた。
──ヘビ。
「十脚目に属する甲殻類のうち、短尾類と異尾類以外の全ての総称であり──」
「辛木君、それはエビだ。エビチリのことは根に持つな」
辛木さんの説明を切り上げる水無月さん。
正しくは、爬虫綱有鱗目ヘビ亜目に分類される爬虫類の総称が、蛇だ。
その蛇が、いて当たり前かのように、秘密基地のような仕事場から蛇が出てきたのだ。
俺は、蛙のように動けなくなり、このままでは「
「え……」
蛇が現れ、その蛇が俺の目の前まで接近する。
「──って、近」
文字通りの目と鼻の先、もはやキスできるような距離感まで接近してきた蛇女は、瞬きもせず一心に俺のことを見ていた。
「近く……ないですか?」
俺は、少し困り一歩下がってそう声をかける。一歩下がっても、一歩近付いてくるから俺が永遠に下がり続けるいたちごっこを繰り返す。
無口無愛想無表情の彼女は、急接近してくるばかりでなんの理由も話してくれない。
「な、なんですか!なんで近付いてくるんですか!」
壁際まで追い込まれそうになって、痺れを切らした俺は少し荒々しい口調でそう声を出した。
すると、彼女は初めて口を開き──
「──怖い人」
そう口にすると、発言とは裏腹に俺に抱きついてくる。
「え、え、何々何?」
俺は、自分の顔が少し赤くなっているのを感じながら、蛇女を引き剥がそうと抵抗する。
「錦ちゃん、大丈夫だ。落ち着いて。絞め殺さなくていいから」
「し、絞め殺す!?」
「
俺は、水無月さんの手を借りて、なんとか蛇女──「錦ちゃん」を引き剥がす。
錦ちゃんは、俺から離れると水無月さんの後ろに隠れた。
「錦ちゃん、
「……
彼女は、最小限の情報だけを語って、また黙り込んでしまう。
「びっくりさせてすまないね。彼女の体は良くも悪くも蛇なんだ。視力はほぼないに等しいし、耳もそんなに良くはない。でも、ピット器官と呼ばれる蛇特有の器官を持っているから、日常生活は問題なく遅れているから心配はいらない」
水無月さんの代わりの説明に、コクコクと蛇ノ目さんは頷いていた。
「ちなみに、お前の1個下だ。別に敬語は使う必要はないぞ」
辛木先輩は、そう補足した。俺の1個下ということは、高校1年生だろうか。
「え、えっと……。びっくりさせて、ごめんな?これから色々ありそうだから、仲良くしてくれる嬉しい」
俺は、水無月さんの後ろに隠れる蛇ノ目錦に握手を求める。彼女は、少しオズオズしながらも、俺の手を握り返して──
「錦ちゃん──って呼んで」
少し俯きながらもそう口にして、可愛らしい舌をチロチロ出しながら、錦ちゃんは俺と仲直りしてくれたのだった。
「──と、貴様。蛇神ブロケードと1年の差であることは、我と同い年ではないか!」
「蛇神ブロケード?」
「錦ちゃんのことだ」
会話に乱入してきた天喰夜宵と呼ばれていた少女に、そう声をかけられる。俺は、蛇神ブロケードが誰のことか一瞬わからなかったけれど、水無月さんにそう耳打ちで教えてもらう。
「貴様も我と同じように蛇神ブロケードと✞血の盟約✞を結ぶとはな!貴様は我と気が合うかもしれん!是非、恒久の
「は、はぁ……」
ここからは、水無月さんが止めてくるまでは、完全に彼女の世界だった。
彼女の言っていることの半分は理解できなかったが、よくわからない顔をすると、まるでこちらが悪いかのような扱いをされたので、適当にそのテンションに合わせておいた。
「そうかそうか!貴様は闇の組織『
あることないこと──否、ないことだけを理解されたような気がするけれども、面倒だから訂正するつもりはない。
俺は、辛木さんが夕食を用意してくれたと言うから、今日から数日寝泊まりすることになるだろう仮の宿舎に移動することになった。
「移動中悪いが、少し今後の話をしよう」
俺は、宿舎で待つ辛木さんのところへ水無月さんと移動する。錦ちゃん1人に、夜宵の相手を任せることになってしまったことだけが、申し訳なく思う。
「まず、君には適性試験を受けてもらう。その結果によって、君の今後が変わってくる」
「──はい」
「結果が良ければ、私達と一緒に国から与えられる仕事を行うことになり、結果が悪ければ、〈
「独房に、受かるまで一生……」
そんな、人から人権を奪うような行為をいとも簡単に行っていいのか──と思ったものの、話を聞くにどうやら、独房にいる期間にも独房の中という制限込みではあるものの、ゲームや漫画などのものは渡してもらえるそうだった。なんなら、スマホもそのまま持っていけるようで、動画などを見て働くこともせず暮らせるような場所らしい。無論、〈
「──それで、その適性試験ってのはいつ受けるんですか?」
「明後日。今日はもう遅いから、明後日取り組んでもらう。それでいいかな?」
「はい」
俺は、水無月さんの言葉に素直に頷いた。
どんな内容かは知らないけれど、落ちても死なずに再受験できるなら、高校受験よりかは怖くない。
──そして、俺と水無月さんはある一室の前で立ち止まり、その部屋の中に入る。
ワンルームのその部屋にあるテーブルの横にある椅子に座って待っているのは、辛木さんで、その机の上に置いてあるのが──
「え」
「貰ってきてやったぞ、飯」
「え、これって……」
「嫌いなやつはいないだろ?カレーだよ、カレー」
机に置かれていたのは、真っ赤も真っ赤、真っ赤っ赤な、いかにも辛そうなカレー。その横には、空になったタバスコが3本ほど置いてあった。
「全く、君というものは……」
水無月さんが、怒りを通り越して呆れている声が俺の耳には届いた。
──こうして、長い長い俺の1日は終わりへと向かっていくのであった。
そして、この日から俺の人生は変わっていったのである。
これは、俺とジャグリングの中毒をもって中毒を制す物語。
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