漢なのに【踊り子】になった俺は異世界を彷徨う。

ビートルズキン

第1話 俺は筋肉、異論は認めぬ。

俺こと金田剛はポーズを決めていた。

ボディービルダーの世界大会で自慢の筋肉を披露する。

見よ、この鍛え抜かれた筋肉を!

吟味する審査員。掛け声をかける観客。俺は自分の白い歯をニカリと見せながら俺は笑顔でポージング。

だが惜しくも結果は残せなかった。

やはり世界は広い。

俺は普段着に着替え、プロテインを飲みながら帰路に就く。

「もう少し大胸筋を鍛えるべきか、いや大殿筋?」

俺はぶつぶつ自分の筋肉のことを考えながら、ぴくぴくとふるえ、有り余るエネルギーをつたえる自分の筋肉を見つめながら、自分のストイックな日々を振り返る。

 俺はぶつぶつと歩いて、秋葉原に来ていた。

 筋肉な俺はオタクでもある。

 というかオタクなのにモテるために俺は筋肉を鍛えてもいるのだ。

 電気街で自分の筋トレ活動を分析するパソコンを新調するのもルーティーンの一つだ。

 自分の筋肉を誇りにおもうがそれ以上にアニメキャラに憧れて体を鍛えたという意味もある。

 だって俺の好きなキャラクターはみなマッチョなのだ。

 かっこいい理想的な筋肉をしているキャラクターを鑑賞し、俺の筋肉生活モチベをあげているのはまぁ言わずもがなである。

 俺はプロテインドリンクと戦利品の同人誌を目いっぱい持ちながらスキップしたい気持ちで歩く。

 だが視線の先にコスプレイヤーの美女が。

 今にも踊りだしそうなアニメキャラの恰好をした彼女は人込みに弾き飛ばされ道路に出てしまう。

 「危ない!」

 トラックが突っ込んでくるのを俺は戦利品を手放し、彼女へと手を伸ばし救いだそうとする。

 寸前のところで彼女を助けることに成功したのだが……。

 俺の意識は暗転する。

 ちくしょう。

 こんなところで俺のマッチョライフは幕を閉じてしまうのか―――――。 

 ——————

 ————

 ——

 目を覚ますと俺はベッドに倒れ込んでいた。

 そして恰好はなぜか、ボディービルダー用の黒パンツ一枚。

 「ここは?」

 俺は部屋のドアを開けて下の階に降りる。

 どうやら酒場らしい。

 いや酒場兼ホテルか?

 いまいち状況が飲み込めない俺の元に一人の女性が駆け寄る。

 事務員のような格好で栗色の髪を後ろに結んだかわいらしさと可憐さがちょうどよいくらいの美女が薄化粧の顔を俺に近づける。

 「カネダツヨシさま、目覚められましたか!」

 大人びた声にたじろぐ俺。

 筋肉はあってもコミュ力はさほどない。

 「ここは異世界—————です。カネダ様の強さを見込んでこの世界に女神」

 そこで俺の思考はぐるぐる回る。

 なぜだ?

 俺の疑問を解消するようにその事務員は名を名乗る。

 どうやら受付嬢といわれる職業の人でギルドという組合に所属して冒険者となるように俺は異世界に女神なんとかによって召喚されたらしい。

 国王との謁見とかは省略されたらしい。

 俺のイチモツをみて赤面するその受付嬢をよそに俺は冒険者かぁとオタクと筋肉 による独特の落ち着きと知識で考える。

 定番の剣士や魔法使いになるのかなぁと俺はわくわくする。

 受付嬢に呼び出され、俺は酒場の人間が酒臭い赤い顔で見守る中、女神像と呼ばれる小さな像の前にひざまずく。

 これによって、俺の職業は決まるらしい。

 ——————あなたは踊り子です!

 天真爛漫をいかにも体現したようなテンションで受付嬢は言った後、職業の名前をもう一度口にして頭にはてなマークを浮かべる。

 俺は溜息と絶望でその場に四つん這いになる(パンツ一丁)。

 俺は筋肉だ、そこに異論はないはず。

 どうして俺は踊り子になってしまったんだ。

 叫びたい気持ちで天井を仰ぎ見てしまう。

 

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