第11話
あの爆発の後、俺たちはホテルに来ていた。流石に崩れた建物の中にいる訳にはいかない。
メイドたちはそれぞれの家に返し俺と花園様、九重、そしてもう一人。
「良かった、桜田陽和も無事だね」
「……」
今でも目を開けず、身体中に包帯を巻いた少女だ。俺が爆発の現場に向かっているとき、九重が抱えて連れ出したらしい。
「九重様……ありがとうございました」
正直なとこし少しも信頼していないのだが、自分の立場上こう言うべきだろう。陽和を助けてくれたのも事実ではある。
「彼女は動けないだろうし、当然だよ。それに様はつけなくていいよ。堅苦しいだろうしね」
「では……九重さんと」
できれば呼びたくも関わりたくもないのが本心だ。本能的としか言いようがないがどうも信用できないし、怖いと思ってしまう。
それに、今回の件についても怪しい。俺は爆発音を聞いてからすぐに向かったのに、九重は陽和を助けたから現場に向かっていた。
俺たちよりも先にいたのにも関わらず。十中八九、関わりがあるのだろう。あの建物内で、炎の男性を何らかの方法で暴れさせて何かをしようとしていた。そして、その行動から九重は俺と花園様の敵で間違いない。
ならば、俺の復讐対象だ。静かに沸き上がる感情を抑えて笑う。今はまだ、復讐は始めないと心に決めて。
ホテルの受付では部屋が二つしかないとのことだった。だからてっきり俺と九重で一部屋。陽和と花園様で分かれると思っていた。
「なんで、花園様が同じ部屋なんですか?」
「ん?嫌だった?」
嫌というわけでもないが、花園様はなにも思わないのだろうか。横に男がいたら気にはならないだろうかと思ってしまう。
「だって、私より九重さんの方が医療の知識はあるし、桜田陽和を任せた方がいいかなって」
だとしてもなような気がするが。自分的には困ることはなにもないのだが本当にいいのだろうかと思いながら椅子に座る。
「それに、玄兎と話している途中だったからね」
そんなことを言う花園様だが先程、自分がいたところが爆発したと言うのに全く動揺や不安が見られない。
一歩間違えばその爆発に巻き込まれていたのかもしれないのにあまりにも平然としているように見えた。そんなことを考えているような顔をしていたのだろうか。花園様が話しかけてきた。
「玄兎、怖かった?」
「……別に怖くはなかったですけど」
「まぁ、そうだよね。すごく冷静そうだったし」
花園様が妖艶な顔で笑いながら少しずつ近寄って来る。そして、鋭く言った。
「あまりにも冷静過ぎたと思ってね。玄兎の能力が関係しているのかな?」
真剣な眼差しで聞いてくる花園様。どこか冷たく凍った瞳をしている。
「ほとんど驚く間もなく、爆発の現場に向かっていったね。普通、もう少し動揺や恐怖を感じても良さそうなのに」
「……そう言う花園様も自分の屋敷が壊れたのに、困った様子も恐怖も無いですよね」
しばらくの間、二人は一言も話さず静寂が辺りを包む。その間も、視線を合わせたままだ。お互いがお互いを探るようにして相手の奥深くまで読み取ろうとする。
急なタイミングで暴走しだした彼のことについて探っているのだ。花園様は俺を疑っているのだろうがやっていないし動機もない。しかし、それ以上に素性が分からずどんな能力を持っているのかも分からない俺が怪しいのだろう。だからと言って無実を証明することも出来ないし、犯人がいるのならば花園様だとも思えない。
そんな沈黙を破ったのは花園様の方だった。
「あの爆発があってから能力は一度でも使った?」
「……使いましたよ」
隠すことも出来ないし、それだけを答える。まっすぐ見つめてくる花園様のはそらすことが出来ない。
「その能力は何?」
少しだけ怒気をはらんだ声で端的に聞かれる。その表情は今でも変わらない。
「…………言いません」
花園様であってもそれは言えない。俺が疑われていることも、花園様の能力を知っていても、言えない。
「何って聞いているのだけど?」
その瞬間にナイフを向けられる。言わなければ容赦はないということだろう。一度、そのナイフを見るが特に緊張はなかった。
だって、ナイフを持つ手が震えていたから。
「能力は言いません。だけど俺はやっていません」
言いきった。そして花園様の腕を掴みナイフを俺自身に突き立てる。一瞬、花園様が驚いた顔をしたがすぐに眉を潜めていた。
「本気で俺だと思うのなら構いません」
「……」
誰も動かない。外の音も聞こえない。まるで時間が止まったかのような空間で額に汗が流れる。
「……はは、玄兎が犯人な訳がないよね」
力なく花園様が言ってナイフを持った手を下ろした。先程までの冷たい瞳が嘘のように笑った顔がそこにはあった。
「能力を教えてくれないのは理由が色々とあるだろうから当然だしね。どうかしてたよ、ごめんね」
そう言われて俺はその場にしゃがんだ。爆発が起きた時よりも緊張した。それが一気に解けて体に力が入らなくなっていた。
「玄兎、大丈夫?あっ」
小さな悲鳴が聞こえたかと思ったら花園様も一緒にしゃがんでいた。緊張状態だったのはお互いだったらしい。
「私もみたい。立てるようになったら紅茶でも淹れようか。流石に疲れた」
「そうですね。俺も疲れました」
少し二人で笑ってから紅茶を淹れて、落ち着いた。焦りや緊張が一気に飛び疲れが押し寄せてきたのだった。
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