第10話

花園 小雪 視点

 会話が途絶えた。後十分間も歩いたら屋敷に着いてしまう。そんな焦りが私の中にはあった。もう少しだけこの時間を過ごしたい。まだ、続けばいいのにと願う。何か、策はないかと考えたときだった。

 玄兎が私の少し前に出た。そして、私の手を握る。

「えっ玄兎?」

そう声を変えるがニコッと笑って言った。

「もう少しだけ続きを踊りませんか?」

 そう言うと腕を引かれて先程と同じ様に踊る。楽しい音楽もないし、私たちの他には誰もいない。月の光だけが私たちを照らして時折、玄兎の表情が見える。


しっかりと私の方を見ていて微笑んでいる。その綺麗な色をした目を月明かりのしたで見るといつもと違った雰囲気に心臓がまた跳ねる。

 私のその反応を見られてしまっただろうかと思うが玄兎は止まることなく踊る。私は彼に体を預けるようにして踊る。


彼の髪が揺れて私のスカートがヒラヒラと舞う。コツコツと二人が履いている靴が良く響く。

 この瞬間がとても幸せで満たされていた。そして、玄兎が立ち止まる。どうしたのだろうかと気がついたときにはつぶっていた目を開く。すると玄兎が抱きついてきた。

「!……ちょっと、玄、兎?」

さすがに驚く。心臓がうるさい。顔どころか全身が熱い。あまりにも近すぎる玄兎に恥ずかしさが襲う。


私は今、どうしたらいいのだろう。びっくりはしているのだが悪いきはしない。そっと私も彼を抱き締める。すると表情は見えないが彼の熱気も感じられた。



 そして、玄兎が私の耳もとで言った。


「小雪、楽しかった。ありがとう」


 初めて、名前で呼んでくれた。敬語を外した話し方が耳から離れない。きっと顔は真っ赤になっているだろう。もう、熱を出してしまったのではと思うほど熱い。そして、ふとどんな顔をしていっているのだろうと思った。


せめて、その顔だけでも見てやろうと思ったのだが玄兎の力が強い。というより私の方が全然力が入っていなかった。

「もうちょっとこのままでもいいですか」

また、敬語に戻る玄兎。しかたがなく了承する。私が玄兎みたいな立場になる予定だったのにと悔しいがこれはこれで嬉しい。


しかし、玄兎はきっと照れた顔を見られたくなくて抱きついたままなのだろうと結論付けて納得する。いつかはその顔を見てやろう。少なくとも私のことは嫌っていないだろうなと思う。

 そして、二人で屋敷に向かう。

「最後のは俺からのイタズラです。一生、覚えておいてください」

「私は玄兎に飴をあげたんだからイタズラしたらだめだよ?」

覚えておいてくださいなんて、意地悪だ。おう忘れることはできないだろう。この気落ちの責任は取って欲しいものだ。

「飴だけでイタズラをするなって……足りないんですよ」

ボソッとそんなことを言う。確かに、女装をさせた挙げ句散々振り回した。飴だけでは足りなかったかもしれない。



でも、だからって私も足りなくなっちゃうじゃん。

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