招く手
天川裕司
招く手
タイトル:招く手
友達と一緒に、マンションの
エレベーターに乗ろうとしていた時の事。
同じフロアの通路の向こうの方で、
ドアが少しだけ開き、手招きしている女の手が見えた。
「…え?」となる。
ゴクリとつばを飲んで
よからぬことを想像してしまった俺だが、
俺の隣で友達は、
「ひっ…!そ、そんなはずは…」
と何かとっさのように呟き、そのまま走って逃げた。
「お、おい!」
と俺は呼び止めようとしたが、あの招く手。
色白の、なまめかしいしなやかな腕で、
ずっと俺を手招きして呼んでるのを見ていると、
欲望に勝てなかった。
俺はついその手に招かれるままその部屋に近づき、
ドアの前に立つと、あの絶品の顔が俺を迎えてくれた。
実は俺も友達もこのマンションに住んでいて、
ここに誰が住んでるのかも知ってた。
絶世の美女、俺は心でそう呼んでいた。
とにかくキレイな人で、可愛らしく、
結婚するならこんな人が良い…
とまで思わされていたほど。
だから誘われたのだ。
「フフ、いらっしゃい」
とばかりに俺を部屋に招き入れ、
あたかも本当に営みが始まろうと言うそんな雰囲気。
だがリビングに行った時、
「え……」
俺が知ってるこの女の人が倒れてた。
血みどろ。
「は…はあっ!!ちょ、ちょっとこれ…」
俺は思わず逃げようとして
後ろを振り向いたがそこには誰も居ない。
「さっきの招いていた手の持ち主は…!?」
俺はあまりの恐怖に気を失ってしまったのか。
…いや、何かに失わされた感じだった。
どれぐらい眠ってたのか…目を覚ますと、
「は…はあっ!?こ、これは…」
と別の男がこの部屋に入ってきていた。
「え……」と思う間もなく
その男は部屋を飛び出して行って、
俺は冤罪で捕まってしまった。
あの男、上手くその辺を隠して自分は保身に徹し、
現実に返る事だけを考えたのか。
「俺じゃない!!」
俺は欲望で捕まったようなもの。
本当にそうなのか…?
でも、あの時リビングで
この人の遺体を見た瞬間に思ったことは、
あの友達の言葉だ。
「そんなはずは」
…もしかしてあいつが。
友達は知らぬうちにマンションを引っ越していた。
おそらく、俺がいつしか憧れ、
恋焦がれてしまったこの女(ひと)は、
部屋(ばしょ)を転々と変え、
あの友達を追い駆けるのか。…もう元友達だ。
でも、確かに身から出た錆…
自分の欲のせいで捕まったにせよ、
「なんで俺が…こんな目に…!」
と思ったのは本当だ。
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=XlX3hh4aIlQ
招く手 天川裕司 @tenkawayuji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます