新しい仲間たち

 リアは何日も迷い続けていた。リュウが活躍しているという噂を耳にし、その姿を実際に見たことで、自分の中での葛藤はさらに大きくなっていた。彼のそばにいたいという思いと、自分が銀狼団で強くなりたいという願い、そのどちらを選ぶべきか、リアには決めきれなかった。


 ギルドで見たリュウの堂々とした姿……フィリアさんと楽しそうに話していた彼の笑顔が、どうしても頭から離れない。自分が知っていたリュウとは違う、強く、自信に満ちた彼。そんな彼を、リアはもう一度そばで見ていたいと強く思うようになっていた。


「やっぱり、私は……」


 ある日、リアはついに決断した。銀狼団の仲間たちが止めても、もう彼女の気持ちは揺らがない。


「リュウのところに行きます」


 そう告げた時、仲間たちは驚いた表情を見せ、すぐに冷たい視線を向けてきた。


「あんな奴のことを気にするなんて……バカバカしい」


「後悔しても知らないぞ、リア」


 彼らの言葉は突き刺さったが、それでもリアは振り返らなかった。リュウと共に過ごした日々、彼の隣で夢を語り合った思い出がリアの背中を押していた。




 再びリュウに会うため、リアは彼がいると噂される場所を訪ね歩いた。彼がどれほど強くなったのか、それを確認するためにも、そして何より彼に自分の気持ちを伝えるために。


 ようやく再会したのは、リュウが新たな仲間たちと共にモンスター討伐に挑んでいる最中だった。目の前にいるリュウは、以前よりもさらに逞しく、頼もしい姿をしていた。エルフの射手であるフィリア……彼女がリュウを信頼し、共に戦っているのがはっきりと感じられた。


 リアは少し離れた場所からその光景を見つめ、しばらく言葉を発することができなかった。彼がどれほど遠い存在に思えたことか。それでも、リアは自分の胸の中にある強い想いを信じて、彼に向かって歩き出した。


「リュウ!」


 彼の名前を呼ぶと、リュウがこちらを振り返った。彼の目がリアに気づき、少し驚いたように目を見開く。


「リア……?」


 リュウが近づいてくると、リアの胸は高鳴り、緊張で言葉が詰まった。しかし、今は伝えなければならない――自分の気持ちを、全て。


「私……リュウのそばにいたいの。あなたと一緒に強くなりたい。もう一度、あなたの隣で戦いたい」


 リアの瞳はまっすぐにリュウを見つめていた。彼女の決意が込められた言葉を聞いて、リュウはしばらく黙っていたが、やがて優しく微笑んだ。


「リア……ありがとう。俺も、君がいてくれると心強い」


 リュウはそう言うと、リアの手を取った。その瞬間、リアの心は温かいもので満たされた。彼と共に歩む決意をした今、彼女に迷いはなかった。




 その後、リュウとフィリアはリアと共に行動を共にするようになった。リアはフィリアとも次第に打ち解け、リュウを中心にした新たな仲間たちの一員となっていった。しかし、そんなある日、思いも寄らぬ出来事が起こる。


 ダンジョンに向かう道中、先にダンジョンに入っていた別のパーティーが慌てて逃げ帰ってくるのと出くわした。彼らの顔には明らかな恐怖が浮かんでいる。


「どうしたんだ?」


 リュウが声をかけると、息を切らした冒険者が答えた。


「奥で……銀狼団が……ドラゴンに襲われて……もう……!」


 その言葉に、リアは一瞬息を呑んだ。銀狼団がドラゴンに襲われている――かつての仲間たちが、今まさに危険に晒されている。


 リアの心には一瞬迷いがよぎった。

『あんな酷い扱いを受けたのに……助けに行くべきなの?』

 しかし、次の瞬間、リュウは迷わず走り出した。その背中には揺るぎない決意が宿っていた。


「行こう、リア。彼らを助けに行く」


 リアはリュウの横顔を見つめ、頷いた。彼が強くなった今、自分も彼と共に戦う覚悟ができていた。


 ダンジョンの奥深く、巨大なドラゴンの影が銀狼団の前に立ちはだかり、彼らは絶体絶命の状況に追い込まれていた。レオンたちは必死に抵抗するが、圧倒的な力の前に成す術もなく、次第に追い詰められていく。


 その時、リュウ、リア、そしてフィリアが駆けつけた。


「お前……!」


 レオンが驚きの声を上げた。かつて役立たずとして追い出したリュウが、今、彼らを救うために現れたのだ。リュウは仲間たちと共にドラゴンに立ち向かい、力強く剣を振り下ろした。


「もう俺は、あの頃の俺じゃないんだ」


 リュウの声が響き渡り、その一撃はドラゴンの鱗を切り裂いた。フィリアの矢が正確にドラゴンの弱点を狙い、リアも魔法で仲間を援護しながら、リュウの後ろで戦いに集中した。


 リュウたちの連携は見事で、次第にドラゴンを追い詰めていった。そして、ついにリュウがとどめの一撃を放ち、ドラゴンは地に倒れ込んだ。


 銀狼団のメンバーたちは、リュウの活躍ぶりに驚きを隠せなかった。あの頼りなかった剣士が、今では彼らを救うほどの実力を持つまでに成長しているとは……。


 レオンはリュウに頭を下げ、震える声で言った。


「リュウ……酷い扱いをしてすまなかった。あのときは……。そうだ、銀狼団に戻ってこないか? お前がいれば……」


 しかし、リュウは首を振った。


「俺には今、一緒に歩む仲間がいるんです。リアも、フィリアも……俺にとっては大切な仲間です」


 その言葉に、リアはリュウの隣で微笑んだ。彼女の中にあった迷いは、もうどこにもなかった。リュウと共に戦う、それが彼女の望む道だったのだ。


 そんな二人の様子を見て、フィリアが素っ気なく一言を放った。


「まったく、仲が良いのは結構だけど……隣で見せられるこっちの身にもなってほしいわよね」


 その言葉に、リアは顔を染めながらも嬉しそうに微笑んだ。フィリアが彼女を仲間として受け入れてくれたことが伝わってきた。




 ドラゴン討伐後、リュウとその仲間たちは新たな冒険に旅立った。リアは、リュウの隣で自分の力を信じ、共に歩んでいくことを誓った。


「ありがとう、リア。君がいてくれて、本当に良かった」


 リュウの言葉に、リアは微笑みながら頷いた。これからも、共に戦っていけることが嬉しかった。

 彼女は彼と共に、新たな冒険の道を歩き出す。


「ほーら、イチャイチャしてると置いてっちゃうよー。バカップル」


 もちろん、もう一人の仲間も一緒にね。

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