パーティを追放された最弱剣士、実は最強の隠れスキル持ちだった件
最弱剣士の再スタート
銀狼団のリーダー、レオンが冷たい目をリュウに向けた。
「リュウ、お前はもう俺たちのパーティーには必要ない」
その一言がリュウの胸を突き刺した……そうだ、わかっていたことだ。自分が銀狼団に入れたのは、実力ではなく親のコネだ。父が貴族でなければ、こんな実力者の集まりに入れるわけがない。レオンたちも、貴族からの資金が欲しかっただけ……リュウは、それを薄々理解していた。
「何か言いたいことはあるか?」
問いかけるレオンの声に、リュウは何も答えることができなかった。荷物持ちや雑務ばかり任される日々に、彼が抱えた悔しさは心の奥底で渦巻きながらも、言葉にならずに消えていく。
「……わかりました」
ようやく振り絞った声は、あまりに小さかった。
そんなリュウを見つめる一人の少女がいた。幼なじみのリアだ。彼女の表情には、わずかに動揺の色が見える。しかし、その一方で、彼女はリュウに背を向けたままだった。
「リュウ……ごめんなさい。でも、私はここで強くなりたいの」
リアは彼にそう告げると、ぎゅっと拳を握りしめた。彼女の夢は、立派な魔法使いになること。そのためには、実力者が揃う銀狼団での経験が何よりも重要だった。たとえ、リュウがその場を去ることになっても……。
リュウは彼女の言葉を聞いて、ほんの一瞬だけ目を伏せたが、すぐに振り向かずに歩き出した。後ろを振り返ることはなかった。彼女の選択を責める資格はないし、自分が役立たずなのもわかっている。そう思いながらも、どこか心の中でぽっかりと穴が空いたような気がした。
リュウはギルドの掲示板に向かい、初心者向けの「スライム討伐」の依頼を手に取った。銀狼団の一員として華々しい依頼に挑むつもりでいた自分が、今はスライム討伐の依頼を手にしている。情けなく感じたが、それでも何かを始めなくてはならない。
「よし……ここから再スタートだ」
そう呟くと、リュウは森へと足を踏み入れた。
スライムと対峙したリュウは、必死に剣を振り下ろしたが、相手は粘り気のある体で攻撃を受け流す。何度も剣を振るううちに息が上がり、汗が滲んでくる。それでもリュウは、決して諦めずに剣を振り続けた。
ようやくスライムが消え去り、討伐が成功した瞬間、リュウは自分の体に不思議な感覚が広がるのを感じた。筋肉が力を増し、握る剣の重みも少し軽く感じる。戦うたびに体が強くなっていく感覚――リュウは、自分の中で何かが変わり始めているのを確信した。
その頃、銀狼団に残ったリアは、リュウのことを思い出さない日はなかった。リュウを追いかけるべきだったのか、それとも強くなるためにパーティーに留まるべきなのか。彼女はその選択に揺れ続けていた。
その日、リアはギルド近くの酒場で仲間たちと共に食事をしていた。ふと耳に入ってきたのは、リュウの名前だった。
「聞いたか? 最近、すごい冒険者がいるって話……あのリュウってやつらしいぜ」
他の冒険者たちがそう噂するのを聞いて、リアは思わず耳を傾けてしまった。
「リュウが……?」
あの頼りなかったリュウが、一人で冒険を続け、すごいと言われるほどの活躍を遂げているなんて……信じられなかった。しかし、心の中でどこか嬉しさも感じていた。
「そんなの嘘だろ? あいつがそんな風に活躍できるなんてあり得ないよ」
隣の席の仲間がそう言い放ったが、リアは何も返せなかった。幼い頃から一緒に過ごしたリュウの姿が、頭の中を何度もよぎる。
「……リュウ、本当に強くなったの?」
彼を追いかけたいという気持ちと、銀狼団で成長したいという願いが心の中でせめぎ合う。彼が去った日からずっと、この葛藤が彼女を支配していた。
リュウは一人での冒険を続け、次第に強敵にも挑戦するようになっていた。「無限成長」のスキルが発動していることに気づいたわけではないが、戦いを重ねるごとに明らかに強くなっている自分がそこにいた。
そのうち、ギルド内で「最近すごい冒険者がいる」と噂されるようになり、リュウの周りには新しい仲間が集まるようになった。クールなエルフの射手、フィリアはギルド内でも有名な射手で、彼女と一緒にいることが「すごい」とされるほどの存在だった。リュウは「最弱剣士」だったころの姿からは想像もつかないほど堂々としていた。
そんな彼の姿を、偶然リアは目にした。
「リュウ……?」
ギルドで目にしたのは、フィリアと楽しそうに話すリュウの姿だった。フィリアさんと……あの有名なエルフと一緒にいるリュウ。リアは思わず立ち止まり、その光景を見つめた。
リュウの表情は明るく、自信に満ちているように見えた。かつての頼りなかった彼ではなく、ギルドの中でも注目される存在として、他の冒険者と肩を並べていた。その様子を見て、リアの心には複雑な感情が渦巻いていた。
強くなったリュウの隣に立ちたいという気持ちと、フィリアと一緒にいることへの嫉妬のような感情……どちらも入り混じり、自分でも整理がつかない。
「リア、あんなヤツのことなんて気にするなよ」
冷たい声が、背後からリアにかけられた。振り返ると、銀狼団の仲間が彼女を見ていた。
「リュウが少し活躍したくらいで、あいつのところに行こうなんて考えるなよ。どうせ大したことないさ」
リアはその言葉に頷こうとしたが、心の中では違う思いが渦巻いていた。リュウが活躍していることを誇りに思う気持ちと、彼が遠くへ行ってしまうのではないかという不安。その感情は、ごちゃ混ぜになりながらリアの心を強く揺さぶっていた。
「私は……どうしたいんだろう……」
リアは自問しながらも、リュウの元へ行く勇気を持てずに立ち尽くしていた。
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