第一話:魔法使いと春風の聖霊 ④
◆明るい夜と謎のアプリ②◆
翌日。
「――はっ!」
目が覚めた智也は、ベッドの上で呆然としていた。
額にはうっすらと汗をかき、心臓も大きく脈を打っている。
「良かった……夢で本当に良かった」
久々に悪夢を見たからか、目覚めが少し悪い。
このままもう一度眠っていたいが、今日は平日。
学校を休むわけにはいかなかった。
智也はいつもよりゆっくりと身体を起こし、静かにリビングへと向かった。
(そういえば……昨日の光、ニュースで取り上げられてるかな?)
テレビを点けると朝のニュース番組があの光の話題を挙げていた。
智也は朝食を食べながら、ニュースの内容に耳を傾ける。
専門家たちは原因を解明しようとしていたが、まだ明確な答えは出ていないようだった。
コメンテーターは【超常事件】という単語を出し、持論を展開している。
朝食と片づけを済ませた智也は部屋に戻り、スマートフォンを手に取った。
画面を点けると、そこに見覚えのないアプリケーションがダウンロードされていることに気付いた。
真っ黒いアイコンに【グリモワール】と記されている。
「何これ? ……グリモワール? 変だな。こんなアプリ、ダウンロードした覚えないんだけど……」
不思議に思った智也は、そのアプリケーションを開いてみた。
画面に現れたのは、不規則に並んだ多角形の図形が織り成す、奇妙な模様。どこか惹きつけられるような、美しささえ感じる。
操作方法も分からず、試しに画面に触ってみても特に何も起こらない。
「なんだこれ……ただのバグアプリ?」
智也はアプリをアンインストールしようと試みたが、どうしても削除することができない。
再起動しても結果は同じだった。
「どうなってるんだ……?」
智也が頭をひねっていると、いつの間にか学校に行く時間になっていた。
「うわっ、ヤバい。遅刻する!」
智也は急いで支度を整え家を出た。
人がまばらになっている通学路を走っていると、ふと、首筋に冷たいものが這い上がるような感覚が走った。
智也はハッと振り向くが、そこには誰もいない。だが、確かに誰かに見られている――その感覚は消えない。
(誰かが見ているような気がしたんだけど……気のせい?)
智也は視線が気になりつつも、すぐに向き直り再び走り出した。
智也が走っている後ろ姿を、電柱の上からジッと見つめる妖しい光が二つあった。
********
「あの光、すごかったよね!」
「だよな~一瞬昼になったかと思ったもん!」
学校でも昨晩の異常な光について話題になっていた。
「おはようトモ!」
「暁、おはよう」
隣の席に座った暁が智也に話しかけてきた。
「今日はあの光の事で盛り上がってるな」
「そうだね」
暁と話をしていると、あのバグアプリのことを思い出した。
「なぁ暁。暁のスマホ何か変なことなかったか?」
「スマホ? いや、何もないけど」
「……そっか」
暁のスマホには特に変なことが起こっていないようだった。
智也は周囲の会話に耳を傾けてみたが、誰も奇妙なアプリケーションのことは話題にしていない。
(あのアプリのダウンロードは単なる偶然だったのかも……)
「トモ、何かあったのか?」
「ううん、何でもない!」
智也はバグアプリのことを話すことなく、そのままいつも通り授業を受けた。
放課後。
智也が一人通学路を歩いていると、また視線を感じ、足を止めた。
(まただ。変な視線を感じる……)
今朝は気のせいだと思っていたが、どうやらそうではないようだった。
自分を品定めするような視線だ。
(何だろう、何だか気持ち悪いな……)
気持ちの悪い違和感を覚えつつも歩きはじめたその時だった。
ぞわり。
背中に悪寒が走り、心臓が早鐘のように打ち始めた。
今朝の登校中に首筋に感じた嫌な感じとは比べものにならない。
突然、背筋に氷のような悪寒が走り、心臓が凍りつくように鼓動を速めた。
ゆっくりと振り返ると、そこには――巨大な蛇の化け物が、電柱に巻き付き、不気味にうごめいていた。
燐光を放つ瞳が、まっすぐに智也を見据えている。
智也は見たことのない存在に、喉がひきつった。
(なんだよ、あれ……っ!)
怪しげな光を放つ瞳を持つ蛇の化け物が口を開き、不気味な声で智也に話しかけてきた。
「見つけたゾ」
「え?」
(「見つけた」ってどういうことだ )
智也は蛇の化け物の言葉に困惑し、恐怖も相まって動けなくなってしまった。
対して蛇の化け物は智也を上から下までなめるように見つめ、嬉しそうに気官からシュルシュルと音を出す。
「【契約】を交わせ。【魔法使い】!」
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