第一話:魔法使いと春風の聖霊 ②

◆夢の中の青年②◆

 公園に到着すると、颯はすでに来ておりベンチに座って本を読んでいた。

「颯君、ゴメン待った?」

「ううん。俺もさっき来たばっかりだよ」

 颯はにこやかに答えると、智也にコンビニで買ったペットボトルの麦茶を手渡した。

「え、いいの?」

「智也君のことだから走ってくると思ってね。買っておいたんだ」

「わあ! ありがとう!」

 智也は颯からペットボトルを受け取ると、ベンチに座って麦茶を飲んだ。

 少し乾いていた智也の喉が、麦茶が通るたびにうるおっていった。

「それで、今日は何かあったんだい?」

 智也はペットボトルをベンチに置くと、意を決して颯に質問をした。

「……颯君は同じ夢を何度も見ることってある?」

「同じ夢を何度も……うーん、ないけど。智也君はあるの?」

「うん。実は――」

 智也はこれまで何度も見ている夢のことを話し始めた。

 銀色の長い髪をたなびかせた整った顔立ちをした青年のこと。

 今までは話かけられたことなどなかったのに、昨晩見た夢ではじめて話しかけられたこと。

「会ったことのない銀髪の青年か……なるほどね。ちなみに、その夢を見始めたのはいつからか覚えてる?」

 智也は記憶を掘り下げた。

 いつからだっただろうか、と思い出す。

「確か……二年生の夏休みが明けてから、だったかな?」

 智也の答えに颯は手に顎を添え、考えこんだ。

(颯君、考えこんでるな……)

 もしかしたら何か悪いことなのかもしれないと、智也は不安になり服の裾をギュッとにぎった。

「大丈夫だよ」

 颯は智也の頭にポンと優しく手を添えゆっくりと撫でた。

 智也は思わず「え?」と声をあげた。

「ごめんね、不安そうな顔をしていたから。嫌だった?」

「ううん。嫌じゃ、ない」

(俺、そんなに分かりやすかったのかな)

 颯の気遣いに智也は思わず頬を熱くさせた。

「智也君が見ている夢なんだけど、おそらく君へのメッセージじゃないかな」

「メッセージ?」

 颯は小さくうなずく。

「あくまで推測なんだけど、銀髪の青年は智也君のことを【見守っている】って伝えているんだと思う」

「そうなのかな? ……会ったことがないのに」

 智也がう~んと頭を傾けると、ザアアア……と風が吹いた。

 暑くもなく、寒くもない、柔らかくて優しい風だった。

 公園の草木が心地よく揺れている。

「会ったことがあるよ」

「え?」

 颯の言葉が智也の思考を一瞬止めた。

「今の智也君が覚えていないだけ、だよ」

「それって――」

 智也の言葉を被せるように、五時を告げるサイレンが流れ始めた。

 それと同時に颯が肩にカバンをかけると、すくっと立ち上がった。

「もう遅いし、帰ろうか」

「う、うん……」

(本当はもうちょっと話をしたいけど、これ以上は颯君に迷惑をかける、よな)

 智也もランドセルを背負い、颯の後ろについていくように歩きはじめた。


 公園を出てしばらく歩いていると、互いの家の分かれ道にさしかかった。

「じゃあ、気を付けて帰るんだよ」

「うん。今日はありがとう颯君。バイバイ」

 智也は颯と別れて家へと歩を進めた。


「……そろそろ、か」

 颯は誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟き、帰宅する智也の後姿をジッと見つめた。

 

 

 颯の分厚いメガネの奥から、一瞬、若草色の光が揺らめいた。

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