第28話 ミュシェルに嘘は付けない
如何する? 反撃でもしてみようか。
俺は黙って石を投げられていたのだが、流石に苛立ってしまう。
それもその筈、怪我までさせられた。少しくらいは、威圧してもいい。
(いや、なに考えてるんだ。そんなことをすれば、ますます……)
自問自答してしまうと、目の前に石が飛んで来る。
尖がった鋭い石が、俺の顔を目掛けていた。
その先には、俺が懲らしめたひったくり犯がいる。
アイツ……と思いながらも、俺はマントで軽く払おうとする。
「主よ、我が祈りを捧げ、我らを守護する壁を贈らん—
すると眩い光が壁になる。
俺の姿を前後左右。今回は真上まで完全に覆う。
「これは……聖壁」
俺はこの魔法を知っている。
しかも聞こえてきた声、間違いない。
「皆さん、なにをしているんですか!」
コツンと言う低い音が聞こえた。
視線を向ければ、そこには案の定、ミュシェルが立っている。
杖を地面に突くと、周囲にいる人達を一蹴した。
「みゅ、ミュシェルさん!?」
「どうしてミュシェルさんがこんな所に」
「しかも魔王を助けるなんて」
「一体どうなってるんだよ!」
なんだ、この騒ぎは。みんな動揺している。
俺は視線を右往左往させると、足早に歩み寄り、俺の前に立つ。
「大丈夫ですか、カガヤキさん?」
「大丈夫だけど……どうしてここに?」
「騒ぎを聞きつけて、慌てて戻って来たんです。すると案の状でした」
騒ぎ? それはひったくりなのか、それとも魔王騒ぎなのか。
どちらにせよ助かった。
俺はホッと胸を撫で下ろすも、ミュシェルの顔は怖い。
「ですが、どうして反撃しなかったんですか!」
「あれ?」
「確かに騒ぎを起こさないで下さいとは言いましたけど、それで自分が怪我をしたらどうするんですか?」
「あー……そうだな」
「そうだなって……まさか! ちょっとその手を見せてください。隠さないで、やっぱり」
俺はミュシェルの言いつけ通り、騒ぎを起こさないようにしていた。
しかも自分からは極力反撃をしない。被害を拡大したり、余計に立場を悪くしたくなかった。
けれどいざ隠していた手を引っ張られ、見せることになると、血が滲んでいた。
怪我をしたことがバレてしまい、俺は蟀谷を掻いた。
「あー、ごめんなさい」
「謝らなくて大丈夫ですので、怪我を治しますよ」
「このくらいなら、その内止まる……」
「ダメです!」
俺はミュシェルに手を握られた。
気が付くと、ミュシェルの着ている白い服に、俺の血が滲んでしまう。
悪いことをしたと思うが、ミュシェルは気にせずに俺の治療をする。
「主よ、我が祈り捧げ、聖なる光でかの者を癒したまえ—
淡い光が俺の手に注がれた。
優しくて温かく、傷付いた指が瞬時に直る。
失われた血液は戻らないのだが、それでも痛みは引いて行き、破けた皮膚が塞がった。
「ありがとう、ミュシェル」
「どういたしまして。それより……これはどう言うことですか?」
ミュシェルは俺の治療を終えると、ギョロッと周囲を睨み付けた。
真っ赤な目をした人達は怖気づき、ビビッて仰け反る。
今にも逃げ出したい気持ちは山々なのだろうが、ミュシェルの気迫で逃げられない。
当然ひったくり犯の男性は一番に視線を向けられると、顔が青ざめている。
先程までの威勢は何処へやら。
集団という優位性も失い、バラバラになった人達で褪せていた。
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