第18話 地図が見たいんだよ!

 サウサー大陸……何所の何? 多分南だろうか?

 そこにあるベルファーの住んでいた魔王城って場所。

 うん、よく分からない。


「そもそもサウサー大陸ってなんだ?」

「えっとですね、サウサー大陸とは、この世界の南に存在している大陸です」

「南……ってことは暑いの?」

「あっ、もっと南にも大陸はあるので、そこまで暑くはありませんよ。冬よりも夏の方が長いですが、四季には恵まれているんです」

 

 ミュシェルはやたら詳しく説明してくれた。

 とは言え、何となく頭の中で想像する。

 あー、地図が見たい。そう思った俺は、ヘッドホンの左ボタンを押し込んだ。


「痒いのですか?」

「いや、そう言うことじゃなくて……」


 更にダイヤルをクルクル回転させた。

 友人Aが作ってくれたこのヘッドホンは特注だ。

 様々な機能が盛り込まれていて、これ一台で色々な機能が搭載されている。


 検索機能も使えた。

 と言うことは、俺がこの世界に転移した時点で、転移者特権としてこの世界に持ち込まれたものになる。


 それなら、この世界の知識もこのヘッドホンには含まれている筈。

 一縷の望みを託して、ダイヤルをロールし続けると、目当ての機能を見つけた。


「おっ、これだ」


 俺はボタンを押して決定する。

 開かれたのは地図アプリ。

 バイザー越しに表示されたのは、見たことも無い世界地図で、俺は目を見開く。


「な、なんだこの地図!」

「な、なんですかこのバイザー。カガヤキさんにはなにが見えているんですか!?」


 俺とミュシェルは互いに違うことで驚いた。

 俺はこの世界の地図を始めて見たから。ミュシェルは俺の付けているヘッドホンから、突然バイザーが出現したから。

 お互いに見たことも無いものを初見で知ったので、声を上げてしまったのだ。


「一体幾つの大陸が……怖っ、地震とか怖いな」


 表示された地図上には無数の大陸が広がっている。

 ユーラシア大陸のような広い大陸から、南極のような氷の大陸。

 更には自然豊かな島々や、何処か見覚えのある、日本のような島まで映っていた。


 とは言えその規模は尋常じゃない。

 もっと簡単な異世界なら、飲み込みも早かったのだろうが、理解するだけで大変だ。

 

頭がパンクしそうになる情報に、俺はおえっとなる。

一旦地図アプリを終了し、見なかったことにすると、ミュシェルに言い切った。


「とりあえず、大体分かった」

「それ、分かってない人が言う言葉では無いですか?」


 ジト目になってマジマジと言われてしまった。

 とは言えぐうの音も出ないくらいご名答。

 俺は視線を外すと、ミュシェルが小さなえくぼを作って笑った。


「ぷふっ。本当に面白い転移者さんですね」

「笑う所?」

「はい。過去の文献にも、異世界への順応が早い転移者は多かったとあります。それに比べると、貴方は順応が遅いですね。よっぽど真面目みたいです」

「余計なお世話だ」


 俺は牙を剥いてミュシェルを威嚇。けれど、俺の本心を知ってしまったミュシェルには何の効果もない。

最初から脅す気なんて無いのだが、逆に強情すぎて、無理していると悟られた。


「無理していますね。可愛らしいです」

「放っておいて欲しいな」

「放っては置けませんよ。炎の魔王が本当に倒されたとしたら、ここに私がいる意味はありません。ですが、ここには貴方がいます。可愛そうな転移者が」


 ミュシェルの可哀そう連打が始まった。

 辞めて、それ以上は言わないでくれ。なんだか俺が惨めに見える。

 グッと唇を押し噛むと、ミュシェルに対してムキになる。


「俺のことを可哀そうとか言う前に、ミュシェルの方が、魔王城に一人取り残されて可愛そうじゃないのか?」

「大丈夫です」

「なにが大丈夫なんだ? アイツらは、お前を囮にして逃げたんだぞ」

「それは仕方のないことですから」

「仕方なくないだろ。勇者が意図的に他人を犠牲にして勝利を掴んでも、なんの称賛も名声もない。そういうものだろ」


 あまりにもファンタジーが過ぎた。

 俺の言う言葉は、あくまでもイメージの中にある勇者像。

 誰かのために戦い、犠牲を生み出さずに勝利を掴む。あまりにも夢物語だったが、流石に仲間を見捨てるような奴らを、俺は勇者とは呼ばない。いや、呼びたくはない。


「カガヤキさん、貴方は夢を見ているんですね」

「見たらダメなのか?」

「いえ、いいと思います。でもそうですね、私は囮にされてしまった。でも、あれでもユキムラさん達は立派な勇者パーティーですよ。私がいなくても、大丈夫な筈ですから」


 自己犠牲の精神。そんなもの、今の日本人には必要ない。

 俺は勇者パーティーの恐ろしさを少しだけ痛感した。

 それに比べると、ユキムラ達はまだ人間味がある。これもミュシェルが真面目に指名を果たそうとしているせいか、俺は額にデコピンをした。


「えいっ」

「痛っ! な、なにするんですか」


 当然ミュシェルは怒った。怒られても当然だ。

 額が赤くなり、手のひらで抑えると、ミュシェルは俺のことを睨んだ。


「ミュシェル、今日は帰った方がいい」

「帰りません」

「魔王城にいつまでもいたらダメだ。勇者パーティーから切り捨てられた以上、戦う必要も加担する必要も無いだろ」


 ミュシェルはあの瞬間、ユキムラ達に切られた。

 俺にはそう見えてしまった。

 何故ならユキムラのあの態度。助けに来る気が一切無く、仕方のない犠牲だと思っていたのだから。


「仮にそうだとしても」

「否定はしないんだ……ユキムラ達はたかが知れてるな」

「そんなことは言わないであげてください。それに、私は帰りませんし、帰れません」

「どうして?」

「もう夜が遅いからです! こんな時間に戻れば、私も貴方も白い目で見られるかも……どうしたんですか?」


 俺は固まってしまった。ミュシェルが今の時間を教えてくれた。

 確認のため、時計アプリを開いた。

 すると時刻は夜の〇時を回っている。一体いつから、何時間の間、ここに居たんだ?

 時間の感覚がおかしくなると、俺はミュシェルに言った。


「時間を教えてくれてありがとう。とりあえず、寝ようか」

「ね、寝る!? もしかして私の体を……」

「なに言ってるんだ? ここが魔王城なら部屋はたくさんある筈。適当にベッドのある部屋を各自見つけて寝ること。それじゃあ、お休み」

「ああ、カガヤキさん!」


 俺はいち早く部屋から出た。

 本当はもっと起きていてもいい。

 けれどミュシェルの膚と、俺の睡眠時間。色々確保するため、そして冷静になるため、俺はいち早く寝ることを決めた。

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