第14話

「当時は時間がおしかったからのう、大森林を突っ切った。森の中のを進むうちどこかで国境を越えツーノクに至った。しかるのち森を抜けた。森を抜けた先の街で宿を取り、疲れを癒すと、次の街へ行くための準備として幾分かの銀を麦に替えた。その時に商人に声を掛けられたのだ。足に自身があるならば次に行く予定の街にとある日までに荷を届けてくれ、間に合ったら謝礼金を払おうと持ち掛けられたのだな、旧友ともは何日までならどうかと交渉をしておったが小僧は首をひねった」


「首をひねった。なぜでしょうか」


「小僧の中ではそういう事は次の満月までとか次の新月まで、などといった言い方しかしてこなかったからであるな。商人どうしや商人と役人の会話ならまだしも、商人と旅の冒険者との会話で何月の何日までに、などという会話が成立している事が不思議であったようだ」


「なるほど、ましてや商人の方からいついつまでにと持ち掛けられたとなれば剣聖様でも驚かれたのでしょうね」


「まさしく。ツーノクでは庶民が当たり前に暦を使っておった、オールスでは王都近郊ならまだしも、少し離れれば役人や村長などの限られた者しか使うものはおらんかったからのう」


「それが国境を越えると、皆が当たり前のように使っていたら驚くでしょうね」


「であるな。長さや重さの単位が街によってまちまちなのは王国と変わらなかったが、庶民にまで暦が通じるというのは便利であったようだ。しかし、それが旧友ともの油断に繋がったのだろうと、今ではそう思うのだ」

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