獣道の行く先は

荒瀬ふく

第1話

「というわけで、借りを返してもらうとするかにゃ」


そうのように少しばかり酔ったツウが言ってテオの部屋の居間にあるカウチに座った。それは王都の街路樹が軒並み黄色く色づいた頃であった。

テオは最近になって片付けが終わったキッチンでコーヒーを淹れんと湯を沸かしている。


「というわけでの意味が解らんのだが。にしても珍しいな、酔っているのか」


「にゃあ。ついな、話が弾んでしまった」


「ああ、そういえば旧知と食事って言ってたな」


「にゃ、その旧知が少し困っててな。どうせテオは暇にゃ。少し手伝え」


「学生は長期休暇だけどさ、だからって僕は暇じゃないんだ。むしろ今こそ論文書いたりして忙しいんだ」


「にゃ、だからと言って帰り道も論文を書いているわけではあるまい」


「それはそうだけど…… 帰り道?」


「にゃ、帰り道。さっき言った旧知の…… 女性なんだがにゃ、仕事の帰り道に誰かに跡を付けられている気がすると、そう言うんにゃ」


「ふむふむ、それは怖いね」


「実際に今日もつけられていた」


「あら」


「にゃあ。待ち合わせ場所にな、不自然に彼女を見つめる男がいてにゃ、顔は見えなかったが、後々聞く話によると猿顔らしい。その男に予約していたレストランまで付けられた。流石に食後まではおらんと思ったがにゃ」


「居たの?」


「にゃあ。だからにゃあ、流石に彼女の家まで送ったにゃ。そして見つけてしまった」


「何を?」


「私好みのオードヴィー」


「ああ、それはこの時間になるわけだ」


言いながらテオが壁に掛けた時計を見たその時、薬缶から湯気が噴出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る