プロローグ
第2話
ーー丑三つ時。
岩場の洞穴の奥深くで、仄かに蝋燭の灯りが揺らめく。
「御前様」
女の声で誰かがかしずく。
大の大人が数十人程度は悠々と入れるであろう空間で、女は敢えて隅の方に姿を現した。
「…蜘蛛か」
応えた主は、金刺繍の施された豪奢なビロードの布を掛けた玉座にもたれ、肘をついて目を細める。
「はい。次の段階へ移る用意が整いました」
わずかな光に照らされた"蜘蛛"は、虚ろな目に傷んでうねる長い黒髪を垂らした花魁姿の女であったが、下半身はその名の通り巨大な蜘蛛の形をしていた。
膨れた腹も伸びた八本の脚も虫のそれそのままで、その姿を人間が見れば一目で腰を抜かすような容姿であるのは間違いない。
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