俺のベッドから出てきた彼女
どこからか電話の着信音が聞こえてきて、目が覚めた。
頭がガンガンする。
ベッドの上で起き上がり、スマホを探す。
ベッドの下に落ちていた。
スマホに手を伸ばすが切れてしまった。
母からの電話だった。
10時を過ぎている。
とりあえず、痛い頭を抱えながらトイレに行く。
ここのところ元気のなかった俺の股間が、なぜか元気になっている。
昨夜の夢を思い出し、用を足す。
それから、洗面所で冷たい水で顔を洗う。
まだ、頭が痛い。
冷蔵庫から冷たいペットボトルのお茶を出し、一気に飲む。
その時、椅子が未だ2脚あるダイニングテーブルの上に置いてあったある品々に急に目が止まり、俺は固まった。
何これ?
キャットフードと猫砂と小さな箱。
小さな箱を手に取ってよく見ると、それはコンドームの箱だ。
開封され、一個足りない。
なんで?
いつ、こんな物買ったの?
テーブルの向こう側の床には、猫砂が入った段ボール箱。
その横には、元カノが置いていった真っ白な食器が2つ床に置かれている。
それぞれにキャットフードと水が入っている。
さらに、頭が痛くなってきた。
そこに、また電話の着信音が鳴った。
また母からだ。
まだ二日酔いと覚えのない品々に朦朧としながら、電話に出た。
「
「えっ!何かあった?」
「もう!忘れてるの?
お父さんの手術の日よ。
もう手術室に入っていったわよ」
そうだった。
「お医者さんから話を聞いて、お父さんの顔を見て、その後ご飯でも食べようって話してたじゃない。
どう?来られる?」
「わかった。行くよ。
何時ごろ?」
「手術が終わるのは1時頃だって」
「それまでには行くよ」
実家は、俺の家から電車を乗り継いで2時間位だ。
支度をして、すぐ出よう。
シャワーを浴びなければ!
下着を取りに寝室に行くと、ベッドがモソモソっと動いて、俺は飛び退いた。
そこに、白い身体に茶色の頭が所々黒くなっている彼女が出てきた。
「え!どちら様?」
思考停止している俺を尻目に、彼女は我が物顔で部屋を闊歩し、水を飲んだ。
そして、元カノと暮らすことになった時に買ったソファに乗り伸びをした。
そして、お尻を突き出した体勢で、俺を見つめてきた。
「何なんだ、君は?
そんなエロくも見える体勢で、俺を誘っているのか?」
彼女と見つめ合っている間、完全に時間が止まっていた。
いかん!
見惚れている場合ではない。
シャワーを浴びて支度をして出かけなければいけないのだ。
シャワーを浴び、髪をドライヤーで乾かし、俺は服を着た。
「すまないが、俺は出かけなければいけない。
帰りたかったら、勝手に帰ってくれていいよ」
俺は、ソファでまた眠ってしまった彼女にそう言った。
彼女は、少し目を開け俺を一瞥し、また目を閉じた。
そして、キッチンの窓が少し開いたまま、ドアに鍵をかけて出かけた。
不用心だが、もう何か盗まれてもどうでもいい位の自暴自棄感が、俺にはまだあった。
最寄りの駅まで歩いて10分程。
俺は、まだお酒が残っているのかふらつき感があった。
2度乗り換えをし、実家に向かう電車でやっと座れた。
俺は、昨夜の記憶を手繰り寄せていた。
彼女とは、一体どこで出会ったんだ?
あの品々はどうしたんだ?
だいたい、牧野といつもの居酒屋で呑んでいる時点から、俺の記憶は相当怪しい。
会計をした記憶がない。
そういえば、時々出会う常連のおっちゃんと牧野が下ネタ三昧で盛り上がっていた。
いつも、スナックのお姉さんを連れて飲みに来る田中さんだ。
そういえば、ポケットからコンドームを出して見せられた様な気がする。
途中、電車の中で牧野から、愛だの恋だのの話を聞かされていた様な気もする。
牧野が電車を降りた後の記憶はほぼない。
よく自分の家まで辿り着けるものだと、毎度感心してしまう。
ただ、いくつか走馬灯のように夢を見たのを覚えている。
俺の部屋の玄関の前に座り込んでいた彼女の光景。
そして、とても白い肌の誰かもわからない女の子と抱き合っている光景だ。
あれは、夢だったのか?現実なのか?
とても生々しく温もりすら感じた。
俺は、一個足りないコンドームを昨夜使ったのか?
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