EP.15 部長の責任、ターバンの言葉
放課後の部室、ふみは自分への不甲斐なさなのか、それともハヤトへの申し訳なさからなのか、声を押し殺して涙を流した。俺はただただ肩をさすることしか出来なかったが、放送部の部長として今起こっている問題に向き合う決意を固めた。ふみが落ち着いた所で一緒に部室を出る。
「色々あって疲れてるだろうし、今日はもう帰って休みなよ」
「…分かった、ありがとう」
とぼとぼと歩き始めたふみの背中を見送り、俺は長井楽器店へと向けて歩き出した。
「おう、今日はえらい遅いじゃねーか」
「色々あって、それでメルは?」
「今日は行きたい所があるっつって先に帰ったぞ」
「そうなんですか、自分もちょっと今日は行きたい所があるんで失礼します」
「なんだなんだ、慌ただしいな。まあまたゆっくり顔出せよ」
長井パイセンに別れを告げた俺は、喫茶レモネードへと向かった。正直ターバンとはちゃんと話したことが無いし、どう接したらいいのか分からなかったけれど、それでも放送部元部長の意見が今は欲しかった。
「…いらっしゃい。ってお前か、今日は珍しいな」
「先輩、どうも」
カウンター席にはメルが座っていた。まるで俺がここに来るのを予想していたかのようで、俺はますますメルの事をすごいと思った。
「どうしてここに?」
「なんとなく、先輩ならここに来ると思って」
「…なんだお前ら、やけに仲良さそうだな」
ターバンが意地の悪い笑みを浮かべつつ俺の前にカフェオレを置く。
「…あっ、すみませんお金なくて」
「いいよ別に、それで?俺に何の用だ?」
「実は…」
そうして俺はターバンにここ数日で起こった事を話した。メルはそれを黙って聞いていてくれて、俺が話終えるとターバンは深くため息をついた。
「…けいすけ、お前はどーしたいんだ?」
「…どうって?」
俺の返事にターバンは少し難しい顔をしながら、自分のカップにコーヒーを注いで1口飲んだ。
「お前にとって一番大事な事はなんだ?」
「…えっと、放送部を軌道に乗せることです」
「その為にはふみが放送部の活動に専念出来る環境を作るのが一番じゃねぇか?」
確かにターバンの言い分は正しかった。だけどなんでそんな風な聞き方や言い方をしているのか、俺にはターバンの真意がよく分からなかった。
「…まぁ、これは今のお前には酷な事かも知れねーけど」
そう前置きをした上でターバンは言葉を続けた。
「今の放送部には機械担当のふみがいて、企画担当のお前がいる。そんでもってアナウンス担当のメルがいるだろ」
「…はい」
「別にハヤトは必要ねぇんじゃねぇか?」
ターバンの言葉はとても予想外で、冷たく感じた。だけどきっとただの冷たい言葉ではなくて、その奥には何か大切なものがあるんじゃないかと俺は思った。
「…まぁ俺から言えるのはそれくらいだな。後は自分で考えてみろ、人に言われた事に従ってるだけじゃ、お前はいつまで経っても成長できねぇぞ」
そう言うとターバンは閉店作業を始めた。俺は少しぬるくなったカフェオレを一気に飲み干して、ターバンに礼を言って店を出た。
「メルの言った通りになっちまったな」
「ふふふ、私の勘は結構当たるんですよ」
そんな会話を交わしつつ、ゆっくりと歩き出す。冬とは違って春のこの時間はまだ少し明るい。学校を少し通り過ぎた所で、メルが立ち止まりこちらへ振り向いた。
「先輩、ちょっと公園に寄って帰りませんか?」
「…ん?ああ、いいよ」
とても小さく、遊具と呼べるものはブランコと鉄棒くらいしかない寂れた公園のベンチにメルは腰掛けた。俺も鞄1つ分の距離を開けて隣に座る。
「先輩はまだ頭の中が混乱してますよね?」
「なんで分かるんだよ」
「ふふふ、女の勘ってやつですよ」
「正直、ふみの事もハヤトの事もどうしたらいいか分かんねーんだ。それに、さっきターバンに言われた言葉も俺にはよく分かんなくて」
俺は正直にありのままを話した。メルは少し考え込むような仕草をした後、ゆっくりと口を開いた。
「これはあくまで私の推測ですけど」
そう前置きをしてから、メルは自分の考えを話し出した。
「田端先輩…あ、ターバンで良いんですよね。えと、それでターバンさんが言いたかったのって、先輩の中で放送部が一番なのかどうかってことなんじゃないかなって」
「どういうこと?」
「冷たいと思われるかも知れないですけど、今の放送部には機械担当のふみ先輩がいて、企画担当の先輩がいて、アナウンス担当の私がいるじゃないですか?」
「うん」
「だから、無理してハヤトくんを引き止める必要はないんじゃないかって、そう言いたかったんじゃないですか?」
「…なんだよそれ、ハヤトだってこの1ヶ月頑張ってきたんだぞ」
「それはもちろん分かってます、でももしふみ先輩がハヤトくんの説得に失敗して、それが原因で放送部を離れちゃったらどうするんですか?」
メルの言葉に俺は何も言い返せなかった。確かにそうだ、もしふみとハヤトが共倒れになってしまったら、今の放送部を維持することは難しくなってしまう。
「…でも先輩はハヤトくんの事もふみ先輩の事も助けてあげたいんですよね?」
暗くなり始めた空を見上げながら、メルはそう俺に問いかけた。
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