第29話

「恵梨、大丈夫。大丈夫だから」


「う、うぅ」



どうやら余計泣いているらしい私。大丈夫じゃないけど、大丈夫って思いたくなっちゃうじゃん、衣千夜。衣千夜、どうしたらいいんだろう。あんな夢が現実にはなってほしくないよ。なんて、私は心の中で言うしかなかった。



「少しはよくなったね」


「うん、、、。ありがとう」


「いいんだよ。恵梨が泣き止んでくれたんだから」


「うん」


「大丈夫。大丈夫だからね」



今更だけど、衣千夜って私には勿体無いくらいのいい人なんじゃないかなって思うな。こんなに幸せなら少しは罰を与えたいのかな、神様は。



「あ、そういえばお母さんたちはお風呂に入ったよ」


「そう、なんだ」


「うん、俺たちは部屋でゆっくりしてようか」


「うん」



さて、どうしよう。どうやってあの事件を起こることなく終わらせる?お父さんが歩道に出る瞬間を狙って引き戻すしかないのかな。じゃああの時の現場を思い出そう。


ひいたのは灰色の普通自動車。居眠り運転のように見えたな。そして、時間的には薄暗い夕方。あれ、おかしいよね、帰るのはお昼って言ってた。じゃあ、その時間の前になにかしらのアクシデントが起きる?

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