【ドッペルゲンガーと出会う?】陳浩基「世界を売った男 」

世界を売った男 (文春文庫) 文庫

陳 浩基 (著)、玉田 誠 (翻訳)

発売日 ‏ : ‎ 2018/11/9



 男女一人・嬰児一人が殺された残虐事件を追っていた男。彼が目を覚ました次の瞬間、実に六年の年月が経過していた。記憶能力に問題があるようだ。自分が許友一ホウ・ヤムイツという刑事であり、事件を追っているという以外の記憶がなくなっている。

 病院に行こうとした矢先、同事件のドキュメンタリー制作に取り組んでいる女性記者の盧沁宜ロー・サムイー阿沁アッサム)と出会う。事件被害者遺族の呂慧梅ルイ・ワイムイと彼女はこれから会いに行くところだという。状況をしるチャンスだと許は、阿沁の協力を仰ぎ、事件の真相を知るべく乗り出す。


 事件は、香港西区のビルで発生。夫の鄭元達チェン・ユエンタツと妻の呂秀蘭ルイ・サウランが刃物で何度も刺されて殺されていたというものである。犯行当時、夫婦の幼い娘の鄭詠安は妻の姉の呂慧梅のもとにいて安全だった。容疑者は林建笙ラム・ケンサンであだ名は「鬼建」。喧嘩っ早い男で、妻が鄭元達と浮気していたことを知り、逆上して犯行にあたったと見られる。


 許は阿沁から、林建笙が逃走中に死亡し、その際子どもを含む七名をはねて殺害していたということを聞かされた。事件は最悪な形といえど、解決を迎えていたのだ。

 だが、許は刑事の勘から林が犯人ではないことを確信していた。

 やがて、林の妻の李静如リー・チンユーの口から、林の友人の阿閻アーイムの名前が浮上する。状況から林がますます犯人の可能性が低いと推理した許は、阿閻の調査に乗り出すが……。


 本格ミステリー小説である。舞台は香港。犯人の足取りを求めて、「刑事」と新聞記者のタッグが香港の街なかを駆け巡る。

 二転三転する真相。スリリングな展開。ラスト前の大どんでん返しにはおどろかされる。

 果たして許は、真犯人を捕まえることができるのか……?


 タイトルは、デヴィッド・ボウイの「世界を売った男」からの引用。作品の冒頭にはエピグラフとして歌詞の一部が掲載されている。また、この曲は物語を通してたびたび言及される。スローなテンポに妖しげなサウンド。歌詞は、自身のドッペルゲンガーに出会った男の狂気を歌っている。この曲こそが、物語を読み解くヒントになっている。


 香港の描写が新鮮。古くからある街で、ながらくイギリスの支配下にあったことから独自の文化圏が花開いている。日本のコンテンツも人気で、作中には「古畑任三郎」「踊る大捜査線」といった刑事ドラマの名前が登場する。


 エキゾチックな香港を舞台に展開する本格ミステリー小説。衝撃の展開に度肝を抜かれた。ミステリー好きの人、必見です。

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