第3話 馬車の中


「……はぁぁぁぁ……」


 私は一人、嫁ぎ先へと向かう馬車の中で溜息を吐いた。


 着慣れない重いドレスが鬱陶しい。色は白く綺麗だが、サイズは大きくその所為で更に動き辛いのだ。実のところこのドレスは、カレンの為に用意された物だった。それを彼女が気に入らないからと私に寄越したのである。

 香蓮は私よりも年下だが、背は高く体型も大人びている。そんな彼女に用意されたドレスが私に合う筈がないのだ。


 国同士を結ぶ結婚だというのに、人の要らない物を着せる神経は流石としかいえない。ミガンマーレ国は『外れ聖女』である私を、体よく厄介払いすることが出来た。香蓮には湯水の如く金品を使うが、私には一銭も使いたくないのである。

 勿論、メイドも貢物もない。私だけだ。


「これは持ち出せて良かった……」


 ドレスの裾を持ち上げる。靴はこの世界に来た時のままの、パンプスである。召喚された際に着ていた服も捨てられてしまうのが嫌で、一緒に持って来た。万が一にでも、国の威信を気にして全て新品が用意されていたらきっと捨てられてしまっただろう。それだけが唯一の救いだ。


 まさか自分が異世界転移させられ政略結婚など、元の世界に居た頃の私には想像もつかないことである。

 結婚願望は少しだけあるが、やはり恋愛感情がなければ嫌だ。理想かもしれないが、好きな人と愛し合い結婚をしたい。現状では大変厳しいことは理解しているが、譲れないものがある。


「まあ……一生飼い殺しよりは良いかな……」


 今、馬車で向かっているのは獣帝国である。一体どんな国なのか、何も知らされていない。唯一の情報は香蓮が言っていた『野蛮で残忍』という情報だけだ。しかし情報源が、彼女であるから信憑性に欠ける。

 結婚相手がどんな人物だろう、お互い形だけの結婚ならば好きな人を持つことは許してくれるだろうか。様々な心配事が頭に浮かぶ。


 せめてミガンマーレ王国よりは、まともな国であるようにとしか祈ることが出来なかった。



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