第13話 過去の影と向き合う

過去は、いつも静かに背後にいて、ふとした瞬間に現れては私を悩ませる。何かに集中しているとき、あるいはぼんやりと窓の外を眺めているとき、不意に胸を突くような記憶が蘇る。過去に受けた傷や、他人から投げかけられた言葉、失敗や挫折。その一つ一つが、いまだに心の中で重くのしかかっていることを感じる。


過去を振り返ると、どうしても後悔が浮かんでくる。「もっとこうしていれば」「あの時、違う選択をしていれば」…そんな風に考えてしまう瞬間がある。でも、どんなに願っても過去を変えることはできないし、その影はいつまでも私の心の奥に居座り続けている。だからといって、過去を完全に忘れることもできない。その影は私の一部であり、今の私を形作るものだからだ。


それでも、過去の影と向き合うことには意味があると感じるようになった。避けてしまえば、その影はどんどん大きくなっていくばかりだ。けれど、自分の中にあるその傷や後悔を静かに見つめることで、少しずつその存在を受け入れることができるようになる。過去に傷つけられたこと、間違いを犯したこと。それらがあったからこそ、今の私がいると考えられるようになった。


もちろん、過去の影と向き合うことは簡単ではない。向き合うたびに心が痛むし、時には涙がこぼれることもある。それでも、その痛みの中で気づくことがある。自分がかつてあれだけ苦しんだことが、今の私にとって大切な教訓になっていることを。過去に負った傷があるからこそ、他人の痛みにも敏感になれる。だからこそ、誰かの心の中の影に寄り添うこともできるのだと思う。


過去の影と向き合うことは、時には暗い道を進むような感覚になる。でも、その影を避け続けるよりも、ゆっくりと自分のペースでそれに向き合うことで、少しずつ自分が解放されていくような気がする。過去は変えられないけれど、過去の意味を変えることはできる。過去の痛みを、今の自分を支える力に変えることができるのだと思う。


過去の影と向き合うたびに、少しだけ自分が強くなっていく気がする。いつかその影が、私を縛るものではなく、私を支えるものになる日が来ると信じて、これからも過去と共に生きていこうと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る